開発ストーリー

ヘリウム封入HDD

気流抵抗を下げてディスクの振動を低減
ディスクの書き込み/読み取り精度の向上と低消費電力を達成

通常、HDD内部には外界と同じ空気が満たされています。HDDの単位あたりの記憶容量は磁気ヘッドや記録方式の進化によって向上してきましたが、HDD内のスピンドルモータは毎分数千から1万回転で回転しており、当たり前のように存在する空気の気流抵抗によるディスクの振動は書き込み/読み取り精度に大きく影響を及ぼし、記録容量増大の障壁となっていました。

気流抵抗を減らしてこのディスクの振動を減らすことができれば、書き込み/読み取りの精度が向上するだけでなくディスクを薄くできるので、より多くの枚数をHDD内に収納することが可能となります。
また、モータに流れる電流も低減するので低消費電力を実現できます。

日本電産がチャレンジしたのは、空気に替わってヘリウムガスをHDD内部に封入することで気流抵抗を減らそうという試みでした。

HDD内部の空気による気流抵抗は無視できない要因に。この気流抵抗を減らすことでディスクの振動が減り、書き込み/読み取り精度の向上や消費電力低減が実現する。

ヘリウムは空気に比べて7分の1の密度なので、気流抵抗が減る一方で原子の大きさもそれに比して小さく、接着材やアルミダイキャスト製のベースプレートの鋳造巣から容易に抜け出てしまいます。
特に、HDDの製品寿命である5年の間ヘリウムガスをHDD内に密封する構造を確立することは非常に難しい課題でした。

わずか1mm~2mm厚のベースプレートからのヘリウム漏れを防ぐために、鋳造時の溶融アルミの流れをCAEで解析し、金型各部の形状と温度制御など、鋳造時のパラメータを最適化しました。
また、真空鋳造技術だけでなく、多くの鋳造技術を開発して採用しました。その結果、5年間ヘリウムを密封できる組織欠陥の少ないベースプレートの量産技術を確立しました。

5年間ヘリウムガスを密封し続けるために許される組織欠陥は、例えるなら25mプールに髪の毛1本ほどの隙間。
それ以上の隙間があるとヘリウムガスは徐々に漏れだしてしまう。

アルミダイキャストの組織欠陥だけでなく、接着部からのヘリウム漏れも課題となりました。接着剤の厚みを確保し、部品の圧入接合工法などを組み合わせて漏れを防ぐ構造を確立しました。

ヘリウム以外のガスはHDD内部の汚染の原因となるため、アウトガス(揮発ガス)の少ない接着剤を選びました。また、接着剤や樹脂系材料などからのアウトガスを低減するために、工程の各所で予めガスを追い出すベーキングを行っています。

モータの流体動圧軸受に使用するオイルも蒸発性が少なく、外部から侵入した湿度に強いオイルをオイルメーカーと共同開発を行いました。こうした数々の努力を経てヘリウム封入HDDは完成しました。ディスクを薄くすることで7枚のディスクを収納し、市場で最大容量となる6TB(2013年11月当時)を実現。
単位容量あたりの消費電力を半減させることに成功しました。

開発者からのコメント

大容量・低消費電力を実現したヘリウム封入HDDはデータセンター向けサーバ市場で売れ行きを伸ばしています。今後、熱アシスト記録方式や多層磁気記録方式などの次世代記録方式へのチャレンジが行われ、HDDはさらに大容量化が進むと考えられています。そうした状況の中で、日本電産はHDDの大容量化を支えるべく、モータの構造のみならずベースプレートやトップカバーまで、さらにはそれらに使用される素材レベルにまで踏み込んで、さらに新たな技術の開発にチャレンジしていきたいと考えています。