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- interview -

“新しい領域”で勝つための戦略とメンタル。
スピードスケート・髙木菜那の思考法

どんな世界においても、新たな領域で戦うこと、そして結果を残すことは容易ではない。
昨今、日本選手の躍進著しいスピードスケート。2015年以降世界大会に導入された新しい種目「マススタート」で世界から注目されているのが、日本電産グループ所属の髙木菜那だ。

今回、彼女は所属企業のCMに初挑戦した。そこで共演した俳優・佐々木蔵之介とともに、新しい領域に挑戦し、そこで結果を残すための戦略とメンタリズムについて語ってもらった。

前例がないことは自由度が高い

―新種目のマススタートに挑む時、不安はありませんでしたか?

髙木:マススタートは前例がないので「こうしなきゃいけない」という決まりがなく、かえって真っ向勝負で戦えました。新しい競技だからこそ、チャンスがあるんです。自分に合っているかどうかは考えず、ただ「結果を残したい」と思って挑戦しました。どれだけ強い気持ちを持っていても、結果を残せなければ100%自分の負け。「どの種目も自分のベストを尽くして良い成績を出そう」という思いで滑っています。

―挑戦はチャンスでもあるんですね。佐々木さんにとっての挑戦は何でしょうか?

佐々木:芝居は常に挑戦ですね。今までやったことがない役はどれも挑戦です。正直「芝居は好きですか」と聞かれてもよくわからない。人生で芝居を選択したのが正解だったのか、それもわからないんです。ただ「まだやり残していることがある、まだ終われない」という思いがどこかにあって、お声がかかったら「とにかくやってみよう」と飛び込んでいっちゃうんですよね。

―どうやって挑戦するチャンスを掴んだらいいのでしょうか?

髙木:きっかけを作るのは自分自身だと思っているので、「やってみたい」と思う気持ちがあればまっすぐ突き進みます。(元スピードスケート選手の)長島圭一郎さんから言われた「無駄なものはひとつもない」という言葉が心に残っていて、努力してきたことは必ず自分の力になると信じていて。そう考えるようになってからどんどん新しい練習も試すようになって、次のシーズンでは良い結果を残せました。

変えられるのは“自分”だけ

―挑戦にはピンチが付き物ですが、ピンチに直面した時はどう対処していますか?

髙木:事前に色々と新しい作戦を立ててはいますが、その場その場の状況に応じて最善策をとっています。そもそもスピードスケートって、そんなにアクシデントがあるスポーツじゃないんですよ。この時間にこのリンクを滑ってくださいね、とあらかじめ決められているので。もし氷が割れて開始時間が遅くなったとしても、その可能性を最初から想定しておけばいいだけ。

それに、自分以外のことは変えられないので、ジタバタしたってしょうがないです。雨を止ませることはできないし、だれかの人格を変えることもできないじゃないですか。だから自分ができることに全力を注ぐんです。とにかく一番速く滑る、それに全神経を集中させていますね。

―常に冷静に向き合っていらっしゃるんですね。

髙木:レース中も、他の選手の動きを頭の中でイメージしながら滑っています。当たり前ですけど、頭を使うのってすごく大切なんですよね。「どういう風に滑ればもっと速く滑れるんだろう」「どうやったら一番効果的な練習ができるのかな」と毎日考えていて。「いいかも」と思った方法はだれもやっていなくても挑戦しますね。

たとえばスケート選手は管理栄養士をつけている人が少ないんですが、私は専属の管理栄養士を見つけてきて、自分の食事管理をお願いしています。どんなことでも、努力した分だけ自分の自信につながるんですよね。これまで自分がどれだけ練習してきたか。積み重ねてきた努力がここぞという時に背中を押してくれます。逆に「努力した」と自分で言い切れなければ、本番で力を発揮できません。

―佐々木さんはピンチに直面した時、どう対処しますか?

佐々木:とにかく向き合い続けるしかないですね。舞台『マクベス』で1人で20役演じた時に、台本を全く覚えられなくて。ふだんの芝居は相手がいるので、コミュニケーションできるんです。もし次のセリフを忘れてしまったとしても会話自体に流れがありますから、相手のセリフを聞いているうちにポンと思い出せる。ところが、一人芝居だとそうはいきません。1か月かけても2か月かけても覚えられませんでした。

仕方がないから公園に行って、その辺にいる鳩や犬に向かって芝居したりしていましたよ。芝居には相手や観客が必要なんだなと思いましたね。だから一人芝居の練習はとても孤独で苦しかった。どうなることかと思いながら稽古の初日を迎えたんですが、稽古場には僕の芝居を観る人がいるわけです。そうしたら、それだけですらすらセリフが出てくるようになりました。しかも、観る人によって僕の演技も変わるんですよ。何も言われなくても、観客の反応は肌感覚で伝わってきます。それに応じて演技するので、どれひとつとして同じ舞台はないんですよね。とんでもなく苦しかったんですが、新しい発見があった仕事でもありました。

ひとつひとつの出会いが原動力

―髙木さんにとって、スピードスケートの原動力は何ですか?

髙木:周りの人ですね。みんなの助けがあったからここまで来られました。私一人じゃ何もできないです。会社のサポートがなければスケートを続けられなかったでしょうし、2年前にケガした膝のケアもできませんでした。毎日ケアしてもらえたからこそ、本番で痛みを感じることなく滑れたんです。本当はもっと練習してやり切りたかったという気持ちもありますが、ここまで私を引っぱってくれたコーチや監督、トレーナーさんに感謝しています。それに、私が活躍することを喜んでくれる人にも支えられていますね。私を見てだれかが喜んでくれることが一番うれしいので。

成長すればするほど「自分はこうしてもらって当たり前だ」と傲慢に捉えがちですが、人への感謝は忘れたくないですね。生きていくために、人との出会いは欠かせません。だからひとつひとつの出会いを大切にしたいです。

―個人競技であっても、周囲のサポートは欠かせませんね。佐々木さんは役者として活動するにあたって、何を目標になさっていますか?

佐々木:よく「次はどんな役をやりたいですか?」と聞かれるんですが、ないんですよ。そういうのは出会いだと思っているので、出会った作品と向き合えばおのずと次の景色が見えるかなと。ただ、役者としては同じような役ばかりやっていると深みが出ないので、色々な役に挑戦してみたいという思いはありますね。自分と遠い役を演じられるのは役者の醍醐味でもありますし、どんな役であっても全力で向き合いたいです。

―人だけでなく、演じる役も出会いが大切なんですね。髙木さんは目標を口に出すタイプですか?

髙木:昨シーズンは言うようにしていましたね。自分を追い込みたかったんです。口だけの人にはだれもついてこないので、目標を口に出すことで自分を奮い立たせていました。ただ、口に出さなかったとしてもどこかで見てくれている人は必ずいます。だからどっちでもいいと言えばどっちでもいいんですよね。ただ、プレッシャーをかけたい時は口に出します。一方で「全力を出してダメだったらそれはそれでしょうがない」とも思っていました。

苦しい時こそ笑うべき

―実際は「ダメだったらそれはそれでしょうがない」とうまく割り切れない人も多いかと思います。おふたりは、つらい時にどうやって乗り越えていますか?

佐々木:ギリギリの精神状態で仕事をしても良い結果は出ないので、つらい時も笑い飛ばすようにしていますね。苦しければ苦しいほど「こんなに大変だなんて笑えるなあ」と“笑い”に昇華させるんです。笑ってしまえば自然とポジティブに乗り越えられるもんなんですよ。

髙木:私もポジティブに捉えるようにしています。昨シーズンは大会1週間前に膝を痛めてしまい、全く滑れなくなってしまったんです。その時はたくさんの人に声をかけてもらって、なんとか前を向くことができました。私は「絶対に後ろを振り向かない。どんな時も笑顔で、前を向いて進もう」って決めてるんです。もちろん人間ですからうまくいかない日もあるし、今日はダメだったなって落ち込むこともあります。でも「たとえ今日がマイナスだったとしても、今までたくさんプラスを積み重ねてきたから、どんなに悪くてもプラスマイナスゼロだ」と考えるようにしていますね。

―おふたりとも乗り越え方が似ていますね。では、お互いに聞いてみたいことはありますか?

髙木:そうですね…私は英語を習得したいんですが、単語が全然頭に入ってこないんです。佐々木さんはたくさんのセリフを覚えてらっしゃいますが、どうやって覚えているんでしょう?

佐々木:僕も英語は全然得意じゃありませんし、覚えるのが得意というわけではないんですが…強いて言うなら、動機を考えるようにしていますね。人がしゃべる時は、何らかの動機があると思うんです。きっちり台本通りのセリフを言おうとすると間違えるんですが、「なんでこの言葉を選んだんだろう」と役の気持ちを考えていくと、自然と“てにをは”まで覚えられます。

僕からは、同じスケート選手である妹さんといっしょに過ごすことをどう思っているか聞きたいですね。

髙木:私と妹は全然違うんですよね。妹は淡々と自分と向き合っているんですが、私は人の目を気にしちゃう。妹は人に負けることよりも自分のみっともない姿を見せることを悔しがるんですが、私は人に負けることを悔しがります。違うからこそお互いに相手から学ぶことはあって、たくさん刺激を受けますね。妹が近くにいなかったら、高校生でスケートを辞めていたかもしれません。前は妹に負けたくない一心でスケートを続けてましたが、今はもっと大きな景色が見えるようになって、もうひとつ上の夢を描けるようになりました。妹が近くにいてくれてありがたいなって思ってます。

やると決めたら、覚悟をもってやり遂げる

―おふたりは常に挑戦し続けていらっしゃいますが、これからの展望を教えていただけますか?

佐々木:役者生命にも限りがあるので、1本1本大切に向き合っていきたいですね。そして、毎回「もうちょっと頑張れるんじゃないか」と背伸びしてせめぎ合いをしていたい。これが正解だという物差しがない芝居だからこそ、技術を果てしなく深めていきたいんですよね。ノリとか気持ちだけでは深みが出ないので、とにかく全力で向き合って手加減しないことが大切だなと。どれだけ経験値を積み重ねていっても、毎回ちょっと無茶するくらいの勢いで取り組んで、何かを残したいんですよ。できる範囲のことばかりやっていると力が落ちていくので、色々な役に少しずつ挑戦していきたいです。

髙木:人生は1回きりなので、色々な景色を見たいです。だから一生スケートだけってことはないですね。ただ、今はスケートに打ち込む時期です。ここまで来たからには限界まで行ってみたい。たとえ思うような結果に到達しなかったとしても、自分を限界まで追い込んだという事実が自信になりますし、その実感が得られるまでは頑張り続けたいですね。限界にたどり着くために、「やったら成長できるんじゃないか」と思うことにはどんどん挑戦して結果を残したいです。努力を継続するのはとても根気がいることなので、常に目標を掲げて歩き続けます。

―最後に、挑戦する人へエールをお願いします。

佐々木:嫌なことは無理してやらなくていいと思います。乱暴な言い方かもしれませんが、苦手科目の勉強はしなくていいんじゃないかと。数学が嫌いだったら国語だけをやるとかですね、それぐらい突き抜けた人たちが文化を作ってきたと思うんですよ。自分を信じて、自分の好きなことを追い求めてほしいです。自分のやりたい仕事のために、二足のわらじで生活するのもアリですし。とにかく好きなことをやり続けてください。

髙木:どんな仕事でも、頑張っている人が好きなんです。自分の仕事に対して責任を持って取り組んでいる人ってかっこいいじゃないですか。たとえそれで失敗したりうまくいかなかったりしても、自分の精神を費やしてやり遂げたことは必ず役に立ちます。私が所属している日本電産の永守重信会長が「やると決めたら最後までやれ」とよく言っていて。責任を全うできるまではやめちゃダメです。覚悟がいることだとは思うんですが、私自身も「できるようになりたい」という強い気持ちさえあればいつかできるだろうと思って、日々練習しています。

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