農業大国を目指すインドの未来を支える灌漑用ソーラーポンプシステムへの挑戦

インドの環境問題 Concept

水不足で乾燥、地割れするインドの環境

世界で7番目に広い国土、中国に次ぐ人口を擁するインドは、米や綿花、茶葉などの一大生産国として知られ、一般的には農業大国というイメージがあるかもしれませんが、実際には多くの課題を抱えています。2015年時点で農業に従事する国民は国内労働人口の約44%ですが、その生産額が国内GDPに占める割合は約15%に過ぎません。この最大の原因が水不足です。ガンジス川やブラフマプトラ川といった大河が流れるものの、広い国土の全域に水が行き渡っているわけではありません。現状、ほとんどの農場が灌漑用の水を井戸水に頼っているのです。

地下50~100mといった深い水脈から水を汲み上げる必要があり、インド国内で約3,500万台のポンプが稼働しているそうです。そのうちの約2,700万台が系統電力を使用する電気式のポンプですが、そこで使用する電力はインド全体の消費量の19%を占めており、電力を逼迫させる社会問題を引き起こしています。残りの約800万台はディーゼル式のポンプですが、軽油の安定的な確保が困難であるうえCO2やPM2.5を大量に排出し、環境に深刻な影響を及ぼしています。

この課題解決に向けて、2014年にインドのモディ首相から直々に会長の永守へ要請があり、日本電産の高効率モータやIoTなどの技術・ノウハウを活かした灌漑用ソーラーポンプシステムの開発および実証実験を開始しました。

システムの立ち上げに際しては、不安定なモバイル通信や井戸の品質(土砂の混入)などに苦労しましたが、これらの技術問題も無事に乗り越えることができました。「現在ではインドのモバイル通信環境や井戸の特徴、設置工事の段取りや設置コストの実情などに関する理解もずいぶん進み、私たちは実証実験から大きな成果を得ることができました。」(植竹)。

ソーラーポンプシステム
への挑戦 Product

必要なエネルギーを太陽光から自立的に調達できる日本電産の灌漑用ソーラーポンプシステム

系統電力や軽油を消費することなく、稼働に必要なエネルギーを太陽光から自立的に調達できる灌漑用ソーラーポンプシステムは、環境にも優しくインド農業の発展に大きく貢献することができます。インドに水不足を起こしている原因のひとつに「雨が少なく1年のうち300日は晴れている」という気象の特徴がありますが、まさにこうした農業にとっての悪条件を逆手にとった施策としても注目されます。

地下50~100mから井戸水を汲み上げるモータを動かすためには、日本の一般家屋2軒分に相当する4.8KWクラスのソーラーパネルが必要とされ、多大なコスト負担を強いられます。そこで求められているのが、より小規模なソーラーパネルでも稼働させることができる高効率のポンプモータなのです。

とはいえ、簡単なことではありません。「晴れたり曇ったりといった気象の変化により、ソーラーパネルの発電量は常に変動します。その不安定な電力供給に対応し、常時フラットに稼働効率を高めなくてはならないのです。」(日本電産テクノモータ 多良)。

そこにブレークスルーをもたらしたのがインバーターの技術です。「電流の変化を“先読み”しながらモータの回転数を最適に制御することで、ソーラーパネルの発電量が急低下した場合でもポンプの停止を回避します。」(日本電産テクノモータ 富永)。

さらにモータの構造そのものにも大きな改良を加えました。地下50~100mという井戸の深いところで稼働させるモータには相当な水圧がかかるため、防水と効率をいかに両立させるかが難題でした。「ロータ(回転子)やステータ(固定子)など、あらゆる設計を見直してシミュレーションを重ね、たとえばリード線の巻き方についても“分散巻き”から“集中巻き”に変更しています。この結果、競合他社のモータと比べて圧倒的に高効率かつコンパクトなモータを実現しました。」(日本電産テクノモータ 山本)。

IoTへの挑戦 Device

IoT技術の活用に挑戦した日本電産の灌漑用ソーラーポンプシステムの試作機

インドの農業に灌漑用ソーラーポンプシステムの普及を図っていくうえで、もうひとつ考慮しなければならない重要なポイントが長期間にわたる安定稼働を実現するサポートです。そこに日本電産はIoT(*脚注参照)の技術を活用しました。

「地下50~100mの井戸の底に設置されたモータの稼働状況を、人間が直接目で見て監視することはできません。そこでモータに設置した各種センサから電流、電圧、出力などのデータを収集し、さらにそれらのデータを複合的に分析することで故障の兆候をつかみ、プロアクティブな保守サービスを提供していく計画です。」(日本電産テクノモータ 多良)。

こうしてシステムとして必要となる基盤技術の開発にめどが立ったことから、日本電産は現地で得た知見をもとに製品仕様をブラッシュアップし、いよいよ量産機の立上げに向けた取り組みを開始しました。

「現在は2016年8月に完成した試作機で実証試験を行っているところですが、今後は本番用の量産機を用いて実際に農場で活用いただくとともに、その稼働状況をクラウドから観測したいと考えています。」(新事業開発部 植竹)。

なお、ソーラーパネル入手/設置に関しては現地化が必須です。そこで現地のシステムインテグレータとの協業による対応を進めるとともに、日本電産からはポンプセット/コントローラおよびIoTを含めたサービスを事業として提供することが決まりました。

*IoT:モノのインターネット、Internet of Things。様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノ同士がインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に制御する仕組み。

社会貢献のその先 Future

透明で美しい水が手のひらから溢れる様子

日本電産が目指すIoTの活用は、単に灌漑用ソーラーポンプシステムの安定稼働を実現するだけにとどまりません。現地の協業先のなかにはビニールハウスで安心・安全な野菜作りに取り組んでいます。こうした栽培技術とIoTの活用で「スマートファーム」に発展させていきたいという構想を持っています。

実際にインドの農場を視察してみると、日本の農業ほど緻密な資源コントロールは行われておらず、圃場に過剰な水が散布されている光景をよく目にします。これは農作物の生育にとっても必ずしも良いことではありません。また、地下の井戸水も無限にあるわけではなく、資源保護の観点からも汲み上げ量は必要最小限にとどめるべきです。

クラウドデータベースと連携し、地域ごとの気象情報や気温、湿度などの広範なビッグデータを取り込んで処理するIoT技術を活用することで、農作物の生育状況にあわせた灌漑用ソーラーポンプシステムの最適な水量コントロールの実現を目指しています。

これによって農作物の品質や収穫量を向上し、ひいては農業従事者の収入を底上げして豊かな暮らしを実現することができます。

さらに日本の大学や研究機関、農業試験場などの技術指導をあわせて受ければ、インド農業の高付加価値化は決して夢物語ではありません。そうした日本とインドの国家間の新たな関係構築につながる取り組みにも、日本電産は一役買って出るつもりです。

インドは環境と社会が調和した世界を代表する農業大国への発展に向けて確かな歩みを進めています。