ロボットの未来と日本電産

日本電産グループがロボット社会に挑む Towards a human-robot society

日本電産グループがロボット社会に挑むイメージ

日本初の進化するキャラクター型コミュニケーションロボット「ATOM」。あの手塚治虫氏の「鉄腕アトム」をモデルに誕生したロボットで、最新の人工知能(AI)を搭載し、人の顔を覚えて会話するだけでなく、その内容もレベルアップしていくというもの。2017年4月に創刊された『週刊 鉄腕アトムを作ろう』(講談社)に毎号パーツが付属し、読者が組み立てて完成させていくという形で発売されました。
この「ATOM」に組み込まれているのが、日本電産グループの日本電産セイミツと、日本電産中央モーター基礎技術研究所、富士ソフトが共同開発したモータモジュールです。

日本電産は今、ロボット分野に力を入れています。
「中国や日本における少子高齢化と、それにともなう労働人口の減少や介護需要の拡大、さらには技術環境や産業構造の変化、世界のフラット化など、さまざまなメガトレンドが重なることで、ロボット市場の拡大は確実に進んでいく」(日本電産 竹本)と考えるからです。
何かモノを動かそうとすると、そこにはモータが必要になります。それはロボットでも例外ではありません。そして、モータと同じくロボットを動かすために必要なのが、モータの回転を力に変える減速機です。
モータをつくる会社である日本電産と、減速機を専門に扱う日本電産シンポ。モータだけ、あるいは、減速機だけをつくるというメーカーが多いなか、日本電産グループは、最初からモータと減速機を組み合わせることを前提に最適な設計ができるのが強み。「実際にOneNidecとしてグループ内連携を取りながら協業で開発をおこなっているプロジェクトがいくつもあります」(日本電産シンポ 井上)。

進化するAGV Evolution of AGVs

進化するAGVイメージ

メガトレンドから今後“人に代わってモノを運ぶ”というニーズがますます高まるであろうと考え、生まれた製品があります。それが、日本電産シンポが手がける次世代無人搬送台車「S-CART」です。
S-CARTの大きな特徴は磁気テープなどのガイドが要らないこと。従来のAGVは床に磁気テープを貼りガイドを用意する必要がありましたが、S-CARTはレーザー測位によって自分で建物内の地図を作って覚え、走り出す際にもう一度レーザーで測位して、覚えた地図との比較により自分の位置や目的地を判断します。このため、工場のレイアウト変更などにも柔軟に対応でき、従来品に比べても導入が非常に簡単になりました。
また、前を歩く人の後についていく「追従機能」や、仕事が終わると元いた場所に戻る「帰巣機能」、途中に障害物があれば避けて通る「自動障害物回避機能」、複数のS-CARTによる「協調機能」も備えています。
「ホテルでお客様の荷物を運んだり、病院で患者さんに食事を運ぶなど、さまざまな用途が考えられますし、もっと小型化して活用シーンを拡げることも考えています」と井上。

さらに今、インターネット購買(EC)の普及により急拡大を続けている物流業界ではラストワンマイル問題に直面しており、異なる配達条件・配達環境のなかで状況に応じた臨機応変な配送の実現が課題となっています。これに対し、AGVの技術をもっと進化させることで、これらの課題にも対応できると日本電産は考えています。いわばデリバリーロボットですが、「私の知るかぎりでも既に世界で数十社のメーカーがフィールドテストを開始しており、弊社も実際に取り組みを開始しています」(竹本)。

パワーアシストスーツにおける日本電産の課題とは The challenges surrounding the design of the powered exoskeleton suit

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もうひとつ、ロボット分野で取り組みが進んでいるのがパワーアシストスーツです。日本だけでなく、中国などでも少子高齢化が進むため、農業や介護の現場などで活躍するアシストスーツは増えてくるでしょう。しかしそれには、まだ課題があります。
パワーアシストスーツは軽くないといけません。例えば腕の助けになっても、その重さで足や腰の負担になれば本末転倒ですし、コンパクトでないと身体の動きの妨げになってしまいます。
そんななかで生まれたのが日本電産シンポの波動歯車減速機「FLEXWAVE」と日本電産台湾モーター基礎技術研究所の偏平高出力のアキシャルフラックスモータ(AFM)を一体化した超偏平アクチュエータです。他に類を見ない約40mmの薄さで、パワーアシストスーツの小型軽量化に大いに貢献しています。

それでも、まだまだ軽薄短小を追求する必要があります。パワーアシストスーツやパーソナルモビリティなどもそうですが、より多くの人に使ってもらうためには、使いやすさはもちろん、実は見た目のデザインの良さも重要です。使用者が好奇の目で見られるのではなく、日常に溶け込むデザインやカッコいいと言ってもらえるデザインである必要があるのです。
そして、設計やデザインの自由度を高めるためにはモータや減速機は小さく軽いほどよい。モータや減速機が軽薄短小であればあるほど、それを組み込む製品は設計上の制約が少なくなり、その分機能性やデザイン性は向上します。「やはりどんなに便利なアシストスーツでもモータがボコっと出っ張っていては不格好ですし、だからと言って出力を落とすことも許されません。軽薄短小、これは永遠の課題です」(竹本)。

静かで滑らかな減速機「トラクションドライブ」 Traction drives—quiet and smooth

静かで滑らかな減速機「トラクションドライブ」イメージ

今後、ロボットの分野で重要になってくる課題のひとつに音の問題があります。例えば図書館で書籍を運ぶロボットがあれば便利ですが、そのロボットが大きな音を立てて動くと利用者はうるさくて仕方がない。同じようにパワーアシストスーツの動作音がうるさければなかなか身につけてもらえないでしょう。
そこで期待されているのが、日本電産シンポが開発した音のしない減速機「トラクションドライブ」です。このトラクションドライブは歯のない歯車、すなわち、金属ローラーと金属ローラーが押し付け合って回るという構造。歯がないため、音もほとんどしません。「この減速機は機構上、厳密に言うと若干の滑りはあるのですが、それ以上に静かで非常に滑らかであるのがメリットです」(日本電産シンポ 前口)。

今後、このトラクションドライブの活躍が期待されている分野のひとつがコミュニケーションロボットへの活用です。
コミュニケーションロボットは、人の音声を認識してアクションを起こしますが、ロボット自身の動作音が大きいと、音声認識用のマイクがその音を拾ってしまい、人からの音声を聞き取ることができないという問題が発生します。「このようなアプケーションには音のしない減速機がベストマッチだと考えています」(前口)。

「弊社は減速機と名が付くものは何でも手がける“減速機のデパート”を目指しており、トラクションドライブもそのラインアップのひとつです」と井上は言います。あらゆる減速機を取りそろえることで、効率を追求する産業ロボットから人との共存を前提につくられるサービスロボットまで、お客様からの幅広い要望に応えられ、最適な供給ができる減速機の総合メーカーとなれるのです。

人とロボットの安全な共存を目指して For safe coexistence

人とロボットの安全な共存を目指してイメージ

これからロボットがもっと社会に溶け込み、ロボットと人が共存していくために最も重要なのが、“安全であること”です。工場などの限られた場所・シチュエーションで使用される産業用ロボットに比べ、サービスロボットは人が暮らす場所・シチュエーション(掃除・警備・受付など)で使用されます。これらのロボットが人にぶつかっても気づかず、人を押し倒してそのまま進むようではまったく使いものになりません。まず人にぶつからないことが大前提。そのうえで、もし何らかの理由で人と接触したとしても、瞬時にそれを検知し、その瞬間に止まる、または戻ることで事故を回避する必要があります。日本電産グループでは、そういった技術の開発も進めています。例えばトルクセンサをビルトインして接触を検知した際は直ちに停止するものや、ある一定の負荷がかかるとそれ以上の力を逃がすトルクリミッターなど、さまざまな技術・方法でより安全性を高める努力が同時におこなわれているのです。

物流・農業の未来に The future of logistics and agriculture

物流・農業の未来にイメージ

少子高齢化や労働力の減少を考えると、物流や農業におけるロボットの可能性は今後どのように広がっていくのでしょう。
竹本は言います。物流の世界では、工場や倉庫での荷物の仕分けはほとんどロボットがおこなうようになるでしょう。大きな物流センターなどではすでに始まっています。あとはラストワンマイル問題を解決するデリバリーロボットが普及するでしょう。
さらに竹本は続けます。農業の分野は2つの方向で発展していくと思います。ひとつは人間の作業を支援するパワーアシストや、収穫物などを運ぶAGVのようなもの。そしてもう一方では、農場の工場化が広がっていくと考えています。自然環境で育つ野菜を、温度や光を管理した工場で育てれば生産性はもっと上がります。しかも工場の中であればクリーンで安全な環境が維持できる。そして工場内のすべての管理をロボットに任せれば人手もかからない。工場という箱自体がロボットとして農作物を育てるというイメージですが、少子高齢化からくる農業従事者の減少や食料自給率の低下などを解決する手段として、このビジョンは非常に実現可能性が高いのではないでしょうか。

ロボット社会は少しずつ身の回りに浸透していく The human-robot society is already here

ロボット社会は少しずつ身の回りに浸透していくイメージ

ロボット社会はある日突然訪れるものではないと竹本は言います。
各社が自動運転自動車の開発に取り組んでいる事は皆さんもご存じのとおりです。自動運転の自動車は言わばロボットのようなもの。自動車の自動運転は近い将来必ず実現しますがまだ少し時間がかかります。
一方で、例えばお掃除ロボットは最近ではすっかり生活に溶け込んでいます。このロボットは、昔は家具や壁にぶつかってから方向を変えるというものでしたが、最近のものはぶつかる前に方向を変えて部屋中を掃除できるようになりました。これがもう少し精度が上がると、例えば駅やビルなどの案内や警備ができるロボットになる。街に出て荷物を運ぶ機能を持たせれば、それはデリバリーロボットと言えますし、人を乗せるようになればパーソナルモビリティです。それが2人、4人と乗れる人数が増えてくれば、そのロボットはもう自動運転自動車と同じでしょう。
「未来の技術は身近なところから広がっていく。我々はお客様の要求を叶えながら、目の前の課題をひとつずつクリアしていく。そして、あるときふと気付くとスゴい社会に到達している。ロボット社会とはそういう形で訪れるのだと思います」(竹本)。