2020年度に売上高2兆円。
その先の10兆円企業へ。

2015年3月期に売上高1兆円を突破した日本電産。
次なる目標は「2020年度における売上高2兆円」、
そして「2030年度における同10兆円」。
端から見れば途方もない目標に映るこの数字は、決して絵空事ではない。
今回は、2013年度に設立された日本電産 中央モーター基礎技術研究所の初代所長を務める福永氏に
この目標数字の解説と日本電産の将来について、
研究所所長の視点を交えながら詳しく語ってもらった。

2015年3月期に売上高1兆円を突破した日本電産。次なる目標は「2020年度における売上高2兆円」、そして「2030年度における同10兆円」。端から見れば途方もない目標に映るこの数字は、決して絵空事ではない。今回は、2013年度に設立された日本電産中央研究所の初代所長を務める福永氏に、この目標数字の解説と日本電産の将来について、研究所所長の視点を交えながら詳しく語ってもらった。

— まずは、福永さん自身が日本電産と関わることになったきっかけから教えていただけますか?

まず、ここに来る前は別の総合電気メーカーで2つの研究所の所長を務めていました。両方ともここと同じ中央研究所、コーポレートラボですね。そこで、私はどちらかというと「企業の研究所自体をどうマネジメントするか」という“研究所の研究”を行っていました。その中で、20世紀型の「1組織で1つの技術を突き詰める研究手法」はすでに限界を迎えていて、これからは21世紀型の「様々な人や知識、技術を組み合わせる研究手法」が必要であるということを説いていたのです。この考え方に、永守会長が興味を持ってくれたのが、恐らくきっかけだったのだと思います。また私としても、日本電産初の中央研究所をゼロから立ち上げるプロセスに非常に関心がありました。

— 2012年当時の日本電産という会社は、福永さんの目にはどう映りましたか?

面白いことに、1975年に私が働き始めた時代の日本のメーカーのような会社だと思いましたね。掃除や整理整頓を徹底していて、全員で行う。また、新人でもやる気があれば、どんどん挑戦させる。通常、会社が大きくなっていく中で疎かになる部分をきちんと大切にしている会社だなと思いました。

— 「事業」や「技術」という観点から見ると、どう映りましたか?

これは中央モーター基礎技術研究所の設立と関係しますが、トップ自らが主力事業であったPC用などのスピンドルモータ事業のピークアウトをいち早く見抜いていました。だからこそ、新しい事業や技術を生み出そうと、中央モーター基礎技術研究所の設立に至ったのだと思います。

モータは21世紀の産業のコメ。
どう付加価値を加えるか。

—ちなみに、福永さんが2016年現在の日本電産を学生に伝えるとすると、「何の会社」と説明しますか?

私の考え方は一貫していて「モータを基盤として、モジュール化、システム化する会社」です。永守会長は、「21世紀はモータが産業のコメになる時代」と言われています。つまり、自動車の動力もエンジンからモータに変わるでしょうし、ロボットも、ドローンも、モータなしでは動くことはできません。身の回りのあらゆるものがモータを使って動く時代になるはずです。ただし、コメはそのままではあまり儲かりません。だから、そのコメであるモータをチキンライスにするのか、フランス料理にするのか。つまり、何と組み合わせて、どう売るのかといったことが求められてくると思います。自動車で説明すると「EPS(電動パワーステアリング)」のモータにはポンプやマイクロプロセッサーが組み合わされ、それが車のネットワークに繋がっている。すると、モータに高い付加価値が付いて売れるようになるわけです。

—チキンライスやフランス料理のたとえ話は面白いですね。ちなみに、チキンライスがモータに付加価値を付けるやり方だとすると、フランス料理は…?

世界の市場を見極め、最適な売り方を考えるということですかね(笑)。たとえば少し古い話ですが、梅棹忠夫は、「民俗学的電気工学の薦め」として、1960年代の日本の洗濯機は水洗いだったのに対し、当時のフランスの洗濯機はヒーターで温めた温水で洗う洗濯機でした。これはフランス人が鼻をハンカチでかむ習慣があり、熱湯を使った高い洗浄力で洗わないと汚れが落ちなかったためです。こういう地域の顧客ニーズを理解した製品開発がこれからのエンジニアには必要だというのを、恩師の長尾真教授から教えられました。同じ洗濯機という家電製品でも求められるモータの種類は変わってきます。そして、こうした世界各地のニーズの収集は、日本電産の得意とするところ。営業社員を中心に世界中にマーケティングの優秀なネットワークが広がっていることが、大きな強みの一つにあげられます。

—「グローバルなマーケティング力」は今後の成長の大きな一因にもなりそうですね。では、ここから今回のインタビューの本題となるのですが、「2020年に売上高2兆円」を達成するにあたって、現在、日本電産ではどういう取り組みを行っていて、どの辺りまで進んでいるのか、学生の皆さんに教えていただけますか?

たとえば、次世代の運転支援技術と呼ばれる自動運転。車載関連モータ事業そのものは2006年辺りから始めていましたが、2014年にエレシスという会社をM&Aで買収してから、より本格化しました。というのも、エレシスの前身はホンダエレシス。買収前は、ホンダの先進安全支援や自動運転に関わる各種センサーの研究開発も行っていた会社です。そこに、日本電産のモータ技術を掛け合わせた結果、「世界最小・最軽量のEPS(電動パワーステアリング)」が誕生。現時点の世界シェアで約30%を誇っています。こうやって、技術を融合させることで、製品競争力がどんどん上がっていきます。

—自動車業界では「部品の電動化」「省エネルギー化(小型軽量化)」「自動運転」はますます進んでいくと言われていますものね?

そうですね。日本電産の成長をけん引する事業の1つだと思います。ただ、この分野は既に会社として過去に取り組んでいたものが実を結び始めたにすぎません。現在、私たち中央モーター基礎技術研究所でも注力をしており、日本電産の新たな事業の柱として育てようとしているのが、ドローンやロボットに用いられるモータの開発です。ちなみに、どちらもモビリティ。この未来のモビリティ領域は大きな可能性を秘めています。

技術と技術を掛け合わせ、
新しい領域を切り拓いていく。

—では、まずドローンからお聞かせいただけますか?

未来の物流手段として注目されるドローンやAGV(無人配送車)は工場や倉庫の物流で普及が加速すると言われていますし、さらにアメリカでは既に人を乗せて運行管理する実験なども始まっています。まさに「空飛ぶタクシー」です(笑)。そして、この市場でシェアを広げていくには「小型・軽量」かつ「高速回転」のモータの開発が欠かせないのですが、幸いなことに日本電産にはグループ会社の中に軽いモータを得意とする会社があります。さらに、モータの回転を調節するためのギア(減速機)も必要なるのですが、これも日本電産シンポが得意としています。だから、その技術を組み合わせ、いや“掛け合わせ”て、この新領域を開拓していく予定です。

—モータと減速機の掛け合わせで新領域開拓の大きな武器となるのですね。では、次にロボットについて教えていただけますか?

モータと減速機の掛け合わせでいえば、ドローンより、むしろこのロボットの領域でより大きく求められると思います。たとえば、ロボットアームや電動車椅子などはスピードを求めません。むしろ、高性能のモータをそれぞれのアプリケーションが求めるスピードにどう減速させることができるかといった技術が必要となる。しかも、小型で軽く、音を出さずに。ただ、この辺りの技術もすべてグループ内にある技術の掛け合わせで見えてきています。そう考えると「2020年2兆円」のポイントは、「いかに1番成長性の高いマーケットを選択し、1番最初に市場に製品を送り出すか」ということになると思うのです。深いテクノロジーも大切ですが、それ以上にスピードを求められる時代ですからね。そして、そのために研究所でも人材や技術の交流を盛んにして、常に技術者に刺激を与えるようにしています。

—たとえば、そのためにどういう環境や仕掛けを用意しているのですか?

この研究所のお披露目会にも出席いただいたカーネギーメロン大学ロボット工学研究所所長の金出教授の研究ポリシーに「素人発想、玄人実行」というものがあります。最初に発想する時はその後の工程のことは考えず、実行の段になったら徹底してプロフェッショナルとして挑め。こうしたポリシーが研究現場で定着するように研究所を日々運営しています。あと、永守会長の話でよく出るのが「桶狭間の戦い」のエピソード。後発組が勝つには待ち伏せしかない、と。可能な限りの準備をして、ここに相手が来るだろうと全員で考えを巡らせる必要がある。だから、常に「次にどんな技術が求められるだろう?」と先回りして研究に臨む必要があるのです。ちなみに、この話の面白いのは、桶狭間の戦いで織田信長が最も表彰した部下は、敵将の首を取った人間ではなく、敵将の最新情報を持ち込んだ人間なのだそうです。情報の価値を分かっていたのですね。だから、私たち技術者も日々アンテナを磨いておかなければなりません。そして、そのために研究所のあり方だけでなく、働き方自体も変わっていく必要があると考えています。

左脳と右脳のバランスが大切。
組織も働き方も変えていく。

—確かに、最近「残業ゼロ」を目指した働き方改革に取り組んでいますが、これも2020年、2030年の成長に向けて必要なピースなのですか?

24時間、頭を使うことは重要です。ただ、ワークとライフのバランスが大切。常にワークのことばかり考えていたら左脳だけが発達して、右脳が動きません。すると、想像力が欠如してくる。日本は60年間成長を続けてきました。その過程で左脳は発達していても、ゼロから新しいものをつくり上げるという右脳の思考訓練に慣れていない人たちが多くなってしまい、現在ではその人たちが多くの企業で中堅 社員として働いている。これは「会社員として働く」という点だけでは良いのかもしれませんが、ゼロから新しいものを作り上げるという点では、あまり望ましいことではないのかもしれません。だからこそ、その足りない部分に関しては、これから入社してくる若い人たちに大いに期待しますし、日本電産の研究所としても右脳を活性化するための組織づくり、働き方づくりを行っていきます。たとえば、若い人がきちんとリスクを取って何度も何度も挑戦できる環境を整えたり。経営や営業部門と離れた場所に研究所を置くことで、次世代のための研究開発を続けられるようにしたり。2020年2兆円の世界は事業部門が中心になって邁進してくれています。研究所はその次の2030年10兆円にむけて私たちがどれだけ種をまけるかにかかってきていると思います。そもそもイノベーションなんて、世間の常識を疑うことからしか生まれないのだから、目に見えるレールを引いたりしてはいけません。

—となると、2020年、2030年への道すじというのは…?

2020年2兆円まではもう本当に見えている。逆に言うと、研究所が必死になるところはありません。ただ、その先の2030年10兆円に向けては、私たちがどれだけ新しい種をまけるかにかかってきていると思います。そして、そのためには考え続けられる環境づくり、挑戦し続けられる組織づくりが絶対に欠かせません。なぜなら、所謂普通の考え方だけでは、新しい発想や技術は一切出てきませんからね。本気で10兆円を目指そうとしたら、世の中と反対のことを考えられて、それを実行できる場所が不可欠。研究所は、目標を掲げるのではなく、あり得ない大ボラを吹かないといけない。その大ボラがやがて夢となり、目標になっていく。これは永守会長もよく言っていることですね(笑)。

入社後、最初に携わる仕事が、
世界を変える仕事かもしれない。

—では、改めて。福永さんから見た、技術者として働く上での日本電産の魅力、可能性を教えていただけますか?

テクノロジージャンルがモータとその周辺に特化して狭いことは、逆に大きなチャンスだと思います。資源を集中できる分、世界と戦うこともできる。モータに対して、ここまで特化して挑戦している会社は世界を見渡してもそういないと思います。さらに、モータの場合、1つの技術、1つの仕事が世の中に与えるインパクトが大きいですよね。入社して最初にアサインされた仕事が「世界を変えられる仕事」という可能性もあるし、そういう経験を若いうちに積むことができた技術者は大きく成長することができます。

—最後に。これから入社してくる若い人に向けて、メッセージをいただけますか?

志や夢のある人に入社してほしいですね。志や夢のある人はどんどん成長するし、逆に能力は高くても志や夢のない人は途中で挫折してしまう。そして、志や夢の種類は問いません。ただ、技術者で大成している人は、概ね小中学生の頃に作文で書いたことを実現している人が多いかもしれませんね。永守会長も小学校の工作で作ったモータが褒められたことがきっかけと話していましたし、私も小学校6年生に見た漫画にルーツがありますしね(笑)。ただ、志や夢と言われてパッと思い浮かばないから、小中学生の頃に作文を書いていないから(笑)といって、悲観する必要はありません。志や夢を「自分の好きなこと」と考え方を変えてみてもいい。柔軟に考えることで、自分が働きやすい・働きたいと思える会社が見えてくのではないでしょうか。そして、日本電産には志や夢を持った人の挑戦に応える環境が整っています。志や夢を現実のものに変えていく活動を、毎日続けられる仕事が待っています。初めは遠回りでもいいと思います。一緒に志や夢を実現していきましょう。