成長し続け、尊敬される企業に。代表取締役社長 吉本浩之 成長し続け、尊敬される企業に。代表取締役社長 吉本浩之

井上 仁

製造業の生産現場はもちろんのこと、サービス産業や家庭生活のさまざまなシーンでもロボットの普及が進んでいます。これに伴い、モータとセットで使われる「減速機」に対する需要も急速に拡大しています。グループ会社の日本電産シンポは、高性能のロボット用減速機や無人搬送台車(AGV)などの製品で新たな分野に挑戦しています。

モータの良き相棒として
不可欠な「減速機」

─はじめに日本電産シンポという会社について教えてください。

当社は1952年に日本初の産業用の「無段変速機」メーカーとして、京都の地に誕生して以来、技術研鑽に励み、変速機・減速機の分野で日本トップレベルの技術を確立してきました。現在は産業用モータの主流であるサーボモータ用の減速機では国内シェア55%というトップの地位にあり、モータの巨大市場である中国でも約35%のシェアを持っています。
減速機の役割は、モータの回転数を小さくし、モータの持っている回転力を拡大することにあります。減速機が使われない分野は、高回転数が求められる扇風機・掃除機・ドローンのような、いわゆる風に関連する限られたもののみで、それ以外のほとんどの機器には減速機が使われています。例えばベルトコンベアを駆動するのに、1800回転/分のモータを使うと、目の前を通り過ぎる品物が速く動きすぎて作業ができませんし、重たい品物を運びたくても回転力が弱いのですぐに止まってしまいます。このモータに減速比1/20の減速機を付けると1800÷20=90回転/分になり、ちょうど良いスピードで品物を運ぶことができ、モータの持っている回転力の20倍の回転力でコンベアを回すことができるので、重たい品物が運べるようになります。
このように、モータが使われるほとんどの場面で、目的の回転数・回転力を得るために減速機が使われています。その意味でモータと減速機は切っても切れない関係=「相棒」であると言えます。
モータは非常にエネルギー効率の良い動力源です。歴史的に見ると蒸気機関のエネルギー効率が10%程度、ガソリンエンジンなどの内燃機関で30%~35%程度ですが、モータのエネルギー効率は70%~80%、高いものでは90%以上にもなります。だからこそ最先端のロボットなども含めて、これからの動力源として効率の良いモータに期待が集まっているので、モータと減速機の市場はまだまだ広がっていきます。そのモータを日本電産本体が作り、モータに不可欠な減速機を日本電産シンポが作るという構図があるわけです。

「超高難度」の市場に挑み、
新規参入を果たす

─「ロボット用減速機」の開発経緯を教えてください。

これは日本電産シンポの開発方針である「メガトレンドに合った開発」という考えに沿ってスタートしました。「メガトレンド」とは、時代の流れに左右されない動向、止められない動向のことで、その一つが「少子高齢化」です。日本や中国では少子高齢化を背景に労働力不足が深刻化しています。工場などでは人の作業をどんどんロボットに置き換えていく必要性が高まっており、また高齢者の介護などの生活分野でもロボットの活躍場面が増えていくと予想されます。多くの分野でロボット需要が生まれ、それに伴いロボット用減速機の需要が急拡大するという読みから、新規分野として「ロボット用減速機」にターゲットを定め、2011年頃から本格的に研究開発を始めました。
しかし、ロボット用減速機の開発は非常に難度の高い分野でした。当時すでに産業用ロボットが世界中の生産現場で活躍し始めていましたが、これらに使われるロボット用減速機の市場は先行企業3社によって寡占されている状態でした。他のギアメーカーや機械メーカー、自動車メーカーなども開発に挑戦したのですが、技術的に難しく、結局は撤退しました。それほど超高難度の世界だったのです。

─「超高難度」の技術開発を、どのようにして成功させたのでしょうか?

ロボット用減速機は、高減速比、薄型、高剛性、高精度といった要件をすべて満たさないといけませんが、これには非常に高度な加工技術が必要です。他社が撤退した理由はそこでした。しかし、当社には「無段変速機」を開発していた時代から連綿と受け継がれてきた高度な加工技術がありました。そうした「匠の技」を駆使しながら、諦めず、日本電産の企業理念でもある「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」の精神で、工夫に工夫を重ね、ようやく開発したのが「FLEXWAVE®」という製品だったのです。この製品の原理自体は40年ほど前にアメリカで考案されたものですが、歯車の加工が非常に難しく、多くのメーカーがこれまで開発を断念してきました。その中で、当社は独自の専用加工機や治具、検査装置の開発によって製品化を実現しました。そして、次に開発したのが「CORONEX®」という製品です。この製品の原理はFLEXWAVEと同じですが、構造を変えることでFLEXWAVEよりも大きなトルクが出せます。例えば6軸ロボットにおいて、CORONEXは高トルクが求められるロボットの基本軸に適しており、一方でFLEXWAVEは軽さや精度が求められる先端軸に適しています。
先述したようにこの分野は先行企業の寡占状態にあり、当社はまだそこに一歩足を踏み入れたというところです。CORONEXは他社製品と比べて「低騒音」や「高効率」などの優位性があるほか、中空構造にすることで、減速機内にロボットの配線を通すことができるというメリットがあります。今後はFLEXWAVE、CORONEXともに、コスト面やアプリケーションでも優位性を出したいと考えており、現在開発を進めています。

精密制御用減速機FLEXWAVE・CORONEX紹介動画

「モータ」と「減速機」の両方を
グループで手掛けることの強み

─新規参入して以降、市場の反応はどうですか?

FLEXWAVEの生産能力は、まだ先行する企業に比べ約3割の規模ですが、受注はどんどん入っています。「作れば売れる」という状態ですね。それだけロボットの需要が世界で急拡大しているということでしょう。この旺盛な需要に応えていくため、長野県の上田市に専用工場を設けて2018年4月から稼働を開始しています。さらにフィリピン工場での生産準備を進めており、2019年度には長岡京工場と合わせて3工場合計で月産20万台規模にまで引き上げる計画です。
2016年には減速機の中にモータを入れた「超偏平アクチュエータ」も開発しました。先述の中空構造を利用して、そこにモータを入れ込むことで業界最薄を実現し、2017年度の「“超”モノづくり部品大賞」の大賞を受賞しました。例えばパワーアシストスーツや電動車椅子の車輪など色々な分野にこの製品を提案していこうと考えています。
この超偏平アクチュエータに使われているモータは日本電産本体で開発したものです。競合は減速機の専業メーカーですが、我々はグループの力をフルに活用して、最適なモータと減速機、回路・ソフトの組み合わせで開発している、そこが大きな強みですね。今後も日本電産の中央モーター基礎技術研究所や、生産技術研究所、東京大学をはじめとした多くの大学とも共同開発を進めていきます。モータに合った減速機も作れるし、逆に減速機に合ったモータも作れる。そのあたりが、この先競合との大きな差になっていくでしょう。

これからの市場競争では「音」が
重要なポイントに

今後の大きな柱にしていきたい分野として「トラクション減速機」があります。これには普通の減速機と違って「歯車」がありません。円筒のローラーを押し付けあい、摩擦力で動力を伝達します。金属同士を押し付け合うと磨り減ってしまいますが、実は特殊な油やグリスを間に入れることで直の接触を避け、1ミクロン弱の油の膜を介して動力を伝達しています。非常に高度な技術ですが、実はこの技術は当社の原点である「無段変速機」と基本的に同じなのです。このトラクション減速機を作れる企業は、世界でもごくわずかで、高い競争優位性があると思います。
トラクション減速機の最大の特長は、歯車がないので非常に音が静かなことです。近い将来、福祉の現場やサービス業など、産業ロボットよりも「生活」に近いシーンで活躍する、コミュニケーションロボットや運搬ロボットがどんどん増えてくると予想されます。そういう場面で強く求められるのが「静音性」です。いくら回転数やトルクの面で高性能であっても、「うるさい」ものは採用されないということです。モータや減速機において、これからはそこが競争の焦点になると見ています。 無人搬送台車に使用されているトラクション減速機