省エネ・創エネで切り拓く日本電産が見据える脱炭素社会 省エネ・創エネで切り拓く日本電産が見据える脱炭素社会

フランク・ジラール

世界規模で拡大する再生可能エネルギー市場。その背景には、深刻化する地球温暖化問題や化石燃料の枯渇問題がある。
高効率モータや関連製品の提供を通し「省エネルギー」の面で環境に貢献してきた日本電産グループは、いま「創エネルギー」の分野においても地球環境への貢献度を大きく高めようとしている。その中核を担うのが2012年に加わったイタリアの「日本電産ASIグループ(以下、NASI)」だ。欧州を中心に、全世界に再生可能エネルギー関連事業を展開するNASIの成長戦略について、日本電産ASI フランス現地法人 社長フランク・ジラールに話を聞いた。

火力から再生可能エネルギー由来への電力転換が世界規模で進む

従来の火力発電を、再生可能エネルギーを利用した発電に転換する動きが世界中で加速している。その背景には深刻化する地球温暖化問題がある。火力発電による石油や石炭など化石燃料の大量消費は、地球温暖化をもたらすCO₂の大量排出につながるうえ、化石燃料資源は近い将来に枯渇してしまうという懸念がある。そこで、CO₂排出が少なく、資源枯渇の心配もない太陽光や風力、バイオマスといった再生可能エネルギーを利用した発電の導入が世界各国で進んでいるわけだ。
この分野で先行する欧州諸国では、太陽光発電と風力発電を中心に再生可能エネルギーへの大規模投資が行われており、「2030年に消費電力の32%を再生可能エネルギー由来にする」ことを目標に、電力転換を進めている。また、経済発展にともなって電力需要が急激に増大しているアジア諸国でも、再生可能エネルギーの導入を近年積極的に進めている。

分散型電源の普及を支えるマイクログリッド技術

NASIが手掛けるマイクログリッド・ソリューション

日本電産ASI フランス現地法人 社長フランク・ジラール

ただし風力発電や太陽光発電のような「分散型電源※」を大量に導入することには課題もある。これらの発電は、季節や気象条件などにより出力が大きく変動する。既存の電力系統にこうした不安定な電力が大量に導入されると、電力の需給バランスが崩れるだけでなく、通常はきめ細かく一定のレベルに調整されている電圧や周波数などの「電力品質」も乱されてしまう。工場であれば、モータをはじめとした産業用機器の動作が不安定となり製品の品質悪化につながり、また、一般家庭でも乱れた周波数で電気製品を使用すると故障や事故、停電につながるなど、電気を安心して使えない状況を招く恐れがあるのだ。
この問題の解決策として期待されているのが「マイクログリッド(小規模発電網)」の技術だ。これは太陽光や風力などの各種発電機と、蓄電池などの電力貯蔵システムをネットワークで統合した、オンサイト型(需要地近接型)の電力システム。既存の電力系統から独立して運転が可能で、電力貯蔵システムが充電・放電を適切に行うことにより、気象条件などで変動する電力を平準化する。それによって電力系統に繋いだ際にも電力品質を最適に保つことができるのだ。
NASIは、まさにこの「マイクログリッド・ソリューション」を軸とした事業成長がめざましい企業だ。「電力品質に対する高い専門性を有する当社では、電力系統への電力の流れをリアルタイムで制御できるため、停電につながる恐れのある障害から送電網を保護できるのだ」と、同社仏現地法人社長のフランク・ジラールは語る。

※分散型電源…小規模な電力発電装置を消費地の近くに設置して電力を供給する方法。

世界各地にソリューションを提供する創業165年の老舗企業

NASIはイタリア・ミラノ市に本社を置く老舗企業。創業は1853年と160年以上の歴史を誇る。産業用機械の製造会社として発足した同社は、その後船舶や鉄道車両向けの電気システムにも進出し、発電から送配電に至る一連の技術を磨いてきた。
再生可能エネルギーの分野に関しても、NASIは20年以上の経験を有する。2005年からは太陽光発電用インバータの販売も開始し、現在までに120以上の太陽光発電プラントにインバータを核とする電源モジュールを納入するとともに、プラント建設も請け負っている。また、洋上風力発電や水力発電の分野でもモータや発電機、インバータなどを含むトータルパッケージを提供してきた。
マイクログリッド向けのソフトウェア開発に着手したのは2009年。2014年には最初のマイクログリッドをチリに完成させ、現在では欧州のほかアフリカ・チャドといった地方部まで、マイクログリッドによるソリューションを提供している。
「NASIの強みは産業用電力システムと電力品質の分野における豊富な経験にある」とジラールは言う。「当社のマイクログリッド・ソリューションには、重工業で広く採用されており、実績のある当社独自のインバータ技術を用いている。電力管理システムとエネルギー管理システムも当社独自の技術であり、主要な供給業者から調達した電池と組み合わせて完全に統合されたソリューションを提供できる」。

日本電産ASI イタリア本社

チリ・アンデス山中の村に
マイクロ・グリッド・ソリューションを提供

南米チリのアンデス山脈の中にあるオヤグエ村の標高は3,660m。富士山頂とほぼ同じ高さのこの村には電力網が通じておらず、村人たちは常に電力不足に悩まされていました。
プロジェクトの目的は、この過酷な環境下に、太陽光発電と風力発電の設備と不安定な発電を補完する大規模蓄電システムを設置し、さらに既設のディーゼル発電機も統合することで、安定した電力を確保することでした。
NASIは、世界中で数多くの再生可能エネルギーをコアとしたグリッドシステムを構築してきた経験を生かし、村の人口や施設数から必要とされる電力量を24時間すべての時間帯ごとに分割算出しました。同時に、年間365日の日照時間や風力を過去のデータから割り出すことで、コストを含めた最適な発電設備システムを設計・開発しました。現在のオヤグエ村では夜でも読書ができる環境が整い、テレビや冷蔵庫など家電の普及も順調に進んでいます。