HDD分野で培った技術を生かし「5つの大波」に乗る!─精密小型モータ事業の新たなる挑戦。 HDD分野で培った技術を生かし「5つの大波」に乗る!─精密小型モータ事業の新たなる挑戦。

宮部 俊彦

世界シェア85%という圧倒的な強さを誇る「HDD(ハードディスクドライブ)用モータ」事業は、日本電産グループの礎を築いたともいえるコア事業です。「5つの大波」の到来によって事業環境が大きく変わりつつあるなか、精密小型モータ事業は、HDDの分野で数十年にわたって蓄積してきた独自技術とノウハウを生かして「5つの大波」に乗ることで、さらなる事業成長に挑戦しています。

全世界をリードしてきた「HDD用モータ」

─はじめに日本電産の成長の原動力となった「HDD用モータ事業」の歴史について、簡単に教えてください。

当社がHDD用モータに進出したのは、ちょうど私が入社する少し前の1979年ですが、80年代半ば頃までは「パーソナルコンピューター(以下、PC)」という機器自体がまだ黎明期にあり、HDD(PC等に内蔵されるデータ記憶装置)が一般に普及するという未来が全く予想できない世界でした。現在、当社には「5つの技術革新の大波」というビジネスチャンスが訪れていますが、PC市場の拡大は、当社が経験した最初の大波だったと言えるでしょう。HDD関連市場に色々な企業が参入して技術革新が起きていったわけですが、初めの頃は部品の仕様も何も決まっておらず、客先も手探りで模索しながら競争を繰り広げていました。
そんな荒っぽい世界で当社が成功できた最大の要因は、「顧客至上主義」に徹したことだと思います。商売の起点はあくまでもお客様であり、お客様への返事は「Yes We Can!」以外にはありませんでした。「No」にはトップの決裁が必要で、どんどん高度になっていくお客様の要求に毎日とにかく必死で対応することを心がけていました。
次に「スピード」です。大手競合が市場動向を静観している中で、当社は引き合いを頂いたら素早くモータを試作し、HDDに組み込んでもらいました。その結果、当社モータの“特徴”に合わせたHDDがデファクト・スタンダードとなり、競合が入りにくい状況を構築していったわけです。
さらには「先を見た量産体制の確立」も大きな要因でした。当時は“トップの一声”で、HDD用モータの新工場を各地にどんどんと作っていきました。着工時にはまだそこまで注文がなく、われわれ社員も「この会社大丈夫か?」と心配するくらいの先行投資でしたが(笑)、工場が完成する時にはどーんと注文が来ていました。まさに先見の明です。市場が急拡大し顧客のモータ需要が高まる中で、競合他社に先行して量産体制を確立できたことは、非常に強い競争力となりました。

─その後も成長を続けたHDD用モータ事業ですが、その中で大きなイノベーション(技術革新)をあげるとすれば何でしょう?

最大の技術革新は、HDDスピンドルモータの軸受けがボールベアリングから「FDB(流体動圧軸受)」に転換したことですね。FDBは従来のベアリングのような金属球を使わず、軸受と軸の間にオイルなどの流体を介入させることで、より低振動・低騒音を実現する画期的な技術です。この原理そのものは100年以上前に発見されていましたが、量産に成功した企業はなく、各社は技術確立に向けて激しい競争を繰り広げていました。
当社にとってもこれは社運をかけた大きな研究開発投資でした。FDBにはサブミクロン(1万分の1mm)レベルでの超高精度の部品加工が必要で、外部発注ではどこも作れません。当社は精密金属加工や精密測定技術に強いグループ会社のトーソクとも連携しながら開発を行い、他社に先駆けてFDBを使用したHDD用モータの量産化に成功しました。その結果、圧倒的な世界シェアを獲得でき、HDD用モータ事業は引き続き成長し続けたのです。

高付加価値製品の拡大で利益率を高める

─近年のHDD市場を取り巻く環境をどのように見ていますか?

世界の年間HDD出荷台数は2010年の約6億5千万台をピークに徐々に減少し、2018年は3億8千万台まで減りました。
この要因の一つは、スマートフォンやタブレットの伸びを背景とした、PC市場の縮小です。それに加えて、HDDから半導体を利用したSSD(ソリッドステートドライブ)への置き換えがあります。SSDは処理速度が速く、モータ等の可動部分が無い分、消費電力が少ないというメリットがあります。一方で価格はHDDより高かったのですが、半導体の価格が以前に比べて大きく低下したこともあり、性能差と相まってノートタイプPCなどの記憶装置ではSSDへの切り替えが加速しています。
ただし、すべての分野でHDD需要が減っているわけではなく、拡大する分野もあります。最も大きいのはデータセンター関連の需要です。クラウド上の膨大な情報を蓄積するデータセンターでは、今でも大容量を強みとするHDDが記憶装置の主流です。かつて個々のPCが管理していた情報は現在クラウドに集積されています。見方を変えると、PCのHDDがデータセンターに集まっているとも言えるでしょう。今後、本格的にビッグデータ時代が到来し、さらに「5G(第5世代移動通信システム)」の環境になることで、クラウドに蓄えられるデータ量は爆発的に増大し、HDD需要も拡大が予想されます。
他にも4K・8K放送で容量ニーズが飛躍的に増大する録画機や、防犯意識の高まりで監視映像などの画像記録ニーズが広がるセキュリティー分野なども、HDD需要の伸びが期待される市場です。

─HDD用モータ事業について今後の展望を教えてください。

売上高に関しては、HDD市場縮小の影響は必至であるものの、平均単価の高いデータセンター用途の割合が増えていけば、数量減少の影響を埋め合わせることができると考えています。一方で利益に関しては、更なる利益率の向上を目指して生産工場の集約による生産の効率化や内製比率の向上によるコストダウンを追求しています。同時に、より付加価値の高い製品の開発にも注力しています。一例が「ヘリウム封入HDD」です。これはHDD内部にヘリウムガスを封入することで空気抵抗を減らし、読み取り精度や記憶容量の向上、消費電力の低減を実現した製品です。空気中の他分子に比べてずっと小さいヘリウム原子をアルミダイキャストのベースプレートに漏れないよう閉じ込めることは非常に難しいのですが、当社独自の高度な金型技術と鋳造技術によってこの技術開発を成功させました。
このように今後のHDD関連事業では、ベースプレートやトップカバーなどモータ以外の部品にも独自技術を生かしてビジネスを広げ、高付加価値製品の構成比率を高めることで、利益率を上げていこうと考えています。

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