2-1-1 DCモータの回転原理を見直す

小学生の頃に、DCモータの回転原理を、磁石の「吸引力と反発力」で理解した方もいると思います。中学、高校ではBLI則とフレミングの左手の法則(後述)を用いてモータの回転原理を学びました。フレミングの法則のほうが「磁石のN極とS極が……」などという説明より、格好いいし、発生する力も計算できて高級そうです。

でもちょっと待って下さい。

DCモータを分解すると、電線(コイル)は、鉄に巻き付けてあります。鉄があると、磁束は鉄の部分に集中するので、コイル部(電線)には磁束がほとんどありません(後の図2.18参照)。これでは、DCモータの回転原理を、「磁界中に置かれた電線に……」というフレミングの法則では説明できません。

かといって、物理や電気工学の教科書が間違っているわけはないしどのように考えたらよいでしょうか?技術を自分のものにするためには、頭だけで理解するだけでなく、実体験に基づいた具体的な理解が大切です。

そのためにも、ここでは、身の回りにある素材を手がかりに、モータの回転原理や回転速度について切り込んでいくことにしましょう。

とにかく体験しよう

もし、お手元にあれば、模型用のモータを動かしてみましょう。

  • モータに1.5Vの乾電池をつないでからまわします。
    モータは、軽やかな音で回転を始めます。これを無負荷運転といいます。
  • 電池の接続を逆にすると、モータは反転(逆転)します。
  • モータ軸を軽くつまんで負荷をかけると、指先に回転力(トルク)が伝わります。
    モータ音が変化して、回転速度が遅くなっているようです。
  • 少し強くつまむとトルクは強くなり、速度はさらに遅くなります。
  • もっと強くつかむと、モータは止まってしまいます。
    そしてモータは唸っています。

次に電池を2本にして、同じ実験をしてみましょう。

  • モータ回転音は、前より高くなり、速く回転しているようです。
  • 電池が1つのときより強い力でつまんでも回転しています。
    モータを止めるのは大変になります。

以上の実験から、次のことがわかりました。

  • 電池を2個にすると回転力が強くなる
  • 電池を2個にすると回転速度が速くなる
  • 電源が同じなら、負荷(ここでは指先の力)が増えると回転速度が下がる

実験と呼ぶにはあまりに簡単な体験でしたが、それでもDCモータの動作原理と特性を考える上で、重要な現象が得られたようです。

それでは、回転力が強まったり、回転速度が上昇するのは電池の電圧の影響でしょうか、それとも電流の影響でしょうか。あるいは回転力と回転速度との間に、どのような関係が成り立つのでしょう。

この体験を手がかりにDCモータについて考えていきましょう。

DCモータの構造

図 2.1に、プロッタやコピー機等に用いられるDCモータの構造と各部名称を示します。

このモータは、模型用モータと比べ、コイル数が多く、カーボンブラシや転がり軸受けを使用しているなど、各機構は精緻になっていますが、基本的な構造と回転原理は同じです。

DC モータの構造と各部名称
                         図 2.1DCモータの構造と各部名称

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