「自動運転」の覇権争いに独自のセンシング技術で勝機を見出す 日本電産株式会社 先進システム 研究開発センター長 三重野 敏幸 「「自動運転」の覇権争いに独自のセンシング技術で勝機を見出す 日本電産株式会社 先進システム 研究開発センター長 三重野 敏幸

三重野 敏幸

より安全・安心な車社会の実現に向けて「自動運転」の技術開発が世界で進んでいます。日本電産グループは、2017年9月に「世界最小ADAS※センサ」を発表しました。競争が激化するこの分野において、先進システム研究開発センターでは、自動車の電子制御分野で培った高度な技術ノウハウと日本電産グループの保有する幅広い要素技術の融合により、高い競争力を持った自動運転技術の開発に取り組んでいます。

※ADAS…Advanced Driver Assistance Systemの略。レーダーやカメラ、センサを搭載し、ドライバーが安全に運転できるように支援する車載システムの総称。

「自動運転」の実現に向けて、さまざまな新技術の実用化が進展

─近年、世界的に「自動運転」の技術開発が進んでいると聞きますが、その動向についてまず教えてください。

自動車というのは人間に移動の自由を提供する道具ですが、そこで最も重要なのは運転者や周囲の歩行者の「安全を守る」ということです。「運転支援」あるいは「自動運転」も、基本的には「ヒューマンエラーによる交通事故をなくす」ことを最大の命題として、メーカー各社は技術開発を進めています。特に日本のように高齢化が進む社会では、人的ミスによる交通事故を減らす技術が強く求められます。そのため、日本や欧米では自動車の安全性能の目安となる自動車アセスメントの導入が広がっており、各自動車メーカーがこの条件を満たすクルマづくりを進める中で、自動運転関連の市場がどんどん拡大しています。
すでに「前方障害物を感知して自動的にブレーキをかけてくれる機能(衝突被害軽減ブレーキ / AEB)」や「車線をはみ出さないように走る機能(車線維持支援システム / LKS)」、「先行車との車間距離を一定に保って走行する機能(定速走行・車間距離制御装置 / ACC)」など、さまざまな技術が実用化されています。これらは先進運転支援システム(ADAS)と呼ばれるものですが、人間がまったく操作せずに走る「完全自動運転」は、このADASの延長線上にあり、実現が目指されています。

─自動運転には、どのような技術が必要なのでしょうか?

人間がクルマを運転する際、まず周囲の状況を正しく「認知」し、それに基づいて今何をすべきか「判断」し、ハンドルやブレーキを「操作」します。自動運転においても、これらの「認知」、「判断」、「操作」の3要素を人間の代わりに機械が行う必要があるため、それぞれの要素に関する技術開発が進んでいます。
なかでもいま急速に技術が進歩しているのが「認知」の部分、すなわち車の周辺状況を正しく把握するための「センシング」の技術です。たとえば夜間や豪雨の中、あるいは霧の中といった悪条件下でも周囲の車両や歩行者、障害物の存在を正確に認知することが自動運転の実現には必要です。まず第一に自分が置かれている状況を正しく認識できなければ、「判断」や「制御」の部分でいかに優れた技術を持っていても意味がありませんからね。その意味で、すべての自動運転のベースであると言えます。

カメラとレーダの一体化によってより高度なセンシングを実現

─2017年9月に日本電産エレシスが発表した新型センサフュージョンについて教えてください。

この製品の最大の特長は「単眼カメラ」と「ミリ波レーダ」という2種類のセンサを一体化したことです。これにより各々の強みを融合させた高度なセンシングを実現しました。
対向車のヘッドライトや、進入禁止・速度制限といった「交通標識」の認識には、画像で解析するカメラが向いています。一方、「対象物との距離」や「速度」などに関しては、電波で測定するレーダの方がカメラよりも高い精度で検知できます。このように2つのセンサが役割を分担して、さまざまなデータをフュージョン(融合)させることで、自動運転を実現するためのより最適な情報が得られます。カメラ画像上の対象物に速度情報を紐づけることで、たとえば「隣の車線から急に入ってきた車」などもすばやく検知できるわけです。

─「一体化」したことでコスト面でのメリットも生まれるのでしょうか?

カメラとレーダを一体にしたことで、各々のセンサのデータ処理を行うマイクロコンピュータや電源機構を共通化でき、コストダウンに繋がっています。また2種類のセンサを別々に取り付ける場合に比べると、自動車メーカーの製造工程における取り付けや調整の手間も大幅に省力化できます。

「車室内への配置」を可能にしたミリ波レーダ用新型アンテナ

─世界最小というのも本製品の強みでしょうか?

まさにそうなのです。従来品に比べ大幅な小型化を実現したことで、この一体型センサフュージョンは車室内(ルームミラー裏)への取り付けを可能にしました。
これまでミリ波レーダを用いた前方検知用センサは、ほとんどの場合、車のフロントグリルに配置されていました。ですが、このフロントグリル周りはエンジン車でも電動車でも色々な機能が密集していて空きスペースが少なく、自動車メーカーはレイアウトに非常に苦労しています。また、この場所に設置すると、汚れの付着や積雪による感度低下や、衝突時に軸がずれるといったトラブルが発生することもあります。
こういった課題がありながらフロントグリルに設置していたのは、従来のミリ波レーダの仕様に制限があったためです。ミリ波はガラスを透過する際に減衰し、検知距離が短くなってしまいます。十分な検知距離を確保するためには、アンテナの投影面積を大きくする必要がありますが、そうすると車室内に設置されたセンサがドライバーの視界を遮ってしまうという問題が出てきます。
この問題を解決したのが、当社が独自開発したミリ波レーダ用のホーン型アンテナです。このアンテナは、特殊な構造によって感度を高めても投影面積にはあまり影響がでません。性能も非常に高く、車室内配置であっても検知距離はフロントグリル配置と同等の200m以上、検知角度は広角の90度を実現しています。各自動車メーカーから高い評価を得ており、すでにあるメーカーの複数の車種に搭載が決まっています。2018年秋から量産を開始する予定です。

カメラとレーダーを一体化することで高度なセンシング技術を実現。運転支援システムを導入しやすい環境作りを推進。

「横断歩道を渡る人々」を個別に検知
次世代ミリ波レーダを開発中

ミリ波レーダは、明るさや天候などの影響を受けにくいセンサとして広く使われていますが、従来のミリ波レーダには「距離や角度の分解能※1が粗い」、つまり「同一方向にある2つの目標物の間の距離が近いと、別々の物として区別できない」という課題がありました。このため高い検知性能が求められるADASのようなアプリケーションでは、より距離と角度の分解能が高いレーザレーダを併用する必要がありました。この課題を解決したのが「ワッフルアイアンリッジ導波路」という当社独自開発の導波路による新型アンテナを用いたミリ波レーダです。非常に小型ながら高い距離と角度の分解能を実現したこのミリ波レーダは「横断歩道を渡る人々」といった密集度の高い対象も個々を区別して検知できます。現在、この技術の実用化に向けた開発を進めており、今後の自動運転技術の進展に大きく貢献できると考えています。
次世代ミリ波レーダに使用されている新型アンテナ技術は、通信用アンテナにも応用でき、「第5世代移動通信システム(5G)」用アンテナへの適用も検討しています。
この技術をアンテナに適用できれば大量のデータ通信が高効率で行えるようになるので、コネクテッドカー※2の拡大など、自動車の次世代機能発展への貢献が期待されています。

※1 分解能…同一方位にある二つの物標を区別できる最小の距離
※2 コネクテッドカー…インターネット通信機能を有する自動車