機械技術2025年7月号

立形5軸マシニングセンタVB-Xシリーズと立体パレットストッカ

<JIMTOF2024出展>VB-X650
パレットストッカ(6P仕様)+マトリクスマガジン(170本)

開発の背景:製造現場の自動化ニーズ

近年、国内の製造現場おいては、少子高齢化や若年層の製造業離れを背景とした人手不足への対応や熟練作業者の確保が喫緊の課題であり、その解決策として生産設備の自動化が不可欠である。
工作機械を用いた部品加工現場に目を向けると、少量多品種生産に適した5軸加工機は、ワンチャッキングで複雑な形状の加工が可能であるが、多品種の加工を行う場合、ワークが変わるたびに取付け具の交換が必要となり、段取り替えの間は機械を停止させなければならず、このことが生産性を低下させる大きな要因となっていた。この問題に対して、立体パレットストッカを導入することにより、事前にワークを取付け具にセットしたパレットを複数枚待機させることができ、機械の停止時間を限りなく0にすることが可能となる。また、立体パレットストッカに組み込まれたスケジュール管理機能により、各ワークの加工時間、納期、優先順位などの情報をもとに、最も効率的かつ長時間の連続運転が可能となり、生産効率の向上が期待できる。
当社ではこのような製造現場の自動化ニーズに応えるため、立形5軸マシニングセンタ(MC)「VB-Xシリーズ」用に立体パレットストッカを開発した。

立体パレットストッカの役割

立体パレットストッカは、ワークをあらかじめ固定したパレットを、MCの加工エリアへ自動的に供給し、交換するための装置である。基本的な構成要素として、複数のパレットを効率的に保管するストッカ部と、パレットをMCのテーブルに搬送・交換する駆動機構部から成り立っている。この立体パレットストッカの最大の役割は、MCが1つのパレット上のワークを加工している間に、作業者が段取り部で、次の加工に使用する別のパレットの段取りを平行して行い、効率化を可能にする点である。

また従来機では、MCにパレットストッカなどの周辺機を後付けすることは多大なコストが必要であったが、VB-Xシリーズ用に開発した立体パレットストッカ「PRMシリーズ」(図1)は、VB-Xシリーズ機に対する後付けを想定して開発を行った。これにより、将来的な生産体制の変更や複数種のワークの生産にも対応が可能である。

図1.VB-Xシリーズに接続された立体パレットストッカ「PRMシリーズ」

立体パレットストッカ「PRMシリーズ」の特徴

1. パレットの自動搬出入による生産性向上への貢献

人手による段取り替えとマシニング加工を同時平行に行うことで、生産性を上げる。段取り時間を除き、長時間の連続自動運転を実現する。

2. 既納機への後付けを考慮した汎用性と拡張性、省スペースの追求

既納のVB-Xシリーズに後付け可能な設計とし、生産量に応じたパレット数の拡張や、異なるワークサイズへの対応も可能とした。また、パレットストッカ導入による工場での設置スペースを最小限に抑える省スペース化を追求している(表1)。

表1.PRMシリーズ 製品概要と主な仕様
機種(単位) VB-X650 VB-X350
パレットサイズ (mm) 500×500 320×320
最大ワーク質量 (kg) 200 100
最大ワークサイズ (mm) φ650×350 φ450×305
パレットストッカ
パレット棚数 最小 (列×段) 6 (2×3) 16 (4×4)
パレット棚数 最大 (列×段) 15 (5×3) 28 (7×4)
段取りステーション 1か所
段取り面 4面 (90°ごと 手動割り出し)

3.直感的な操作を可能とする新規ユーザーインターフェイスの開発

熟練作業者でなくても容易に操作可能なスケジューラを新規に開発。タッチパネルを採用し、シンプルで直感的な操作性を実現している。(図2)

図2.パレットストッカ操作画面

4. PRMシリーズ導入のメリット

  • 生産性の向上:
    連続自動運転により、夜間や休日を含めた無人による自動運転が可能となり、機械稼働率が向上。これにより単位時間当たりの生産量を増加させることができる。
  • 人手不足の解消:
    熟練工の不足や若年層の製造業離れといった課題に対し、省人化は有効な手段となり、人的リソースを付加価値の高い業務へ有効に活用できる。
  • 品質の安定化・均一化:
    人の介在を減らすことで作業のばらつきを抑制し、常に一定水準の加工精度と品質を維持する。また、スケジューラによる加工履歴や稼働状況などの各種データを自動的に記録・管理することで、品質保証の強化に貢献する。
  • 製造コスト削減:
    直接的な人件費の抑制に加え、ヒューマンエラーに起因する不良や手戻りの削減が期待でき、トータルコストの低減につながる。
  • 生産計画の柔軟性向上:
    段取り替えの自動化は、少量多品種生産への対応を容易にし、リードタイムを短縮できる。
  • 作業環境の安全性向上:
    立体パレットストッカを使用する場合は、複数のワークの段取りが必要になるため、段取りステーションでの作業者の負担低減を図るためワークへの接近性を従来の565mmから410mm(機械前面~パレット中心)に短縮した。

高速・高精度立形5軸MC VB-Xシリーズの特徴

VB-Xシリーズの主な技術的特徴について紹介する。本シリーズは、高速性、省スペース性、高精度・高剛性、操作性、そして自動化への拡張性を高い次元で融合させ、ユーザーの生産性向上に貢献することを目標に開発した立形5軸MCである。 2012年に販売した立形5軸MC「VC-X500」の後継機として開発。 従来機から構造を一新し、回転軸を含む送り軸の速度と加速度、環境熱変位耐性の向上、省スペース、テーブルへの接近性を改善した。

1. クラス最高水準の高速性によるサイクルタイム短縮

VB-X650は、直線軸(X・Y・Z軸)の早送り速度を従来機から3割向上させ、毎分63mを達成した(図3)。また、早送り加速度も従来機比6割向上させた。 回転軸(B軸・C軸)にはダイレクトドライブ(DD)モータを標準採用し、B軸(傾斜軸)で従来機が25回転/minに対して、50回転/min、C軸(旋回軸)で従来機が50回転/minに対して、100回転/min、と従来機比2倍の回転速度を実現。これにより、バックラッシレスで高速・高精度な割り出しが可能となり、90°割り出し時間はB軸0.54秒、C軸0.49秒へと大幅に短縮した。 工具交換時間(ATC)も、チップtoチップで従来機4.5秒から、3.4秒に短縮した。ATCアームをシャッタ内に配置する構造により、切りくずを遮断し、長時間の自動運転における信頼性を高めた。

図3.VB-X650 加工例とワークサンプル

2.クラス最高水準の省スペース性

VB-X650は従来機と比較して、長手方向寸法を13%(3,720mm → 3,235mm)、横幅寸法を3%(2,450mm → 2,390mm)、高さ寸法を5%(3,500mm → 3,345mm)削減した。XY軸ストローク当たりのフロアスペースでは、他社比較においてクラス最高水準の省スペースを実現しており、既存設備からの更新時における設置自由度を高めた。

3. 高精度・高剛性

オーバーハングを排除した軸構成と、有限要素法解析による鋳物構造の最適化により、高精度と高剛性の両立を図った。 室温変化に伴うコラム前後方向の熱変位は、実測値で従来機比57%減を達成。 また、実測での静剛性はX軸方向で1割、Y軸方向では5割向上した。 この高剛性により、主軸テーパ40番の5軸加工機でありながら、S45C材に対するφ100(5枚刃)正面フライス加工で切り込み深さ5mm、切削量毎分336ccといった高能率な粗加工による加工時間短縮を図っている。

4.主軸バリエーション

主軸は、最高回転速度毎分15,000、モータ出力37/26/18.5kW(15%ED/30分/連続)、最大トルク250N・m(10%ED)のオイルエアー潤滑主軸を標準装備。 オプションとして、さらに高速な毎分20,000回転仕様(オイルエアー潤滑)や、オイルエアー潤滑の滴下対策として毎分12,000回転仕様(グリス潤滑)も選択可能である。 VB-X650は、これらの特徴により、部品加工から金型加工まで幅広いニーズに応え、生産性向上とコスト削減を図ることができる。

5. 操作性と自動化対応

作業者のテーブルとの接近性向上のため、5軸テーブルのサポート部をコンパクトに設計し、段取り部カバー前面からテーブル中心までの距離を従来機より短い565mmとした。 主軸ヘッド上部のドア天井も開口するため、クレーンなどによるワークの搬入出が容易である。また、エアー・潤滑機器を機体背面に集中配置することで、日常点検の作業性を改善している。 自動化への対応として、先に紹介した立体パレットストッカに加え、最大170本収納可能な工具ストッカ「マトリクスマガジン」(図4)などをオプションとして用意し、長時間の連続運転を可能にしている。

図4. VB-Xシリーズ マトリクスマガジン

今後の展望と技術開発

人手不足は一過性の現象ではなく、社会構造的な課題として製造業全体が向き合うべきテーマである。この課題に対し、人の手で行われてきた作業を機械に置き換える「自動化」こそが、持続可能な生産体制を構築するための有効な手段と考える。
当社が目指す自動化は、単なる「省人化」ではなく高品質な製品を安定的かつ効率的に生産するとともに、作業者の負担軽減も図り、創造的で付加価値の高い業務へのシフトを促し、安全で働きがいのある職場環境を実現することだと考えている。自動化は、人と機械がそれぞれの能力を最大限に発揮し協調することで、従来にない生産性と品質の高みを目指すことを可能とする。
今後もユーザーの声を真摯に受け止め、製造現場の改善を継続し、パレットストッカだけでなく、さらなる省人化・省力化、稼働率向上、製造コスト低減に貢献すべく、商品開発を行っていく。