軽に挑む Vol.01

軽くて吸引力のあるコードレスクリーナーを。掃除機のトレンドをリードする超高速回転モータ。 軽くて吸引力のあるコードレスクリーナーを。掃除機のトレンドをリードする超高速回転モータ
軽薄短小のメインビジュアル 軽薄短小のメインビジュアル
モータの軽量化が掃除機の魅力を左右するに関する写真

モータの軽量化が掃除機の魅力を左右する

手に持って掃除ができるコードレスクリーナー。収納に場所を取らず思いついたときにすぐ掃除できる手軽さが消費者の心をつかみ、近年の売れ筋商品になっている。かつては吸い込む力に疑問符があって、補助用とみなされていたが、いまやキャニスター型と変わらないくらい強力な吸引力で、これ一台で家中の掃除ができるまでになっている。

そのコードレスクリーナーのモータに革新をもたらしたのが精密小型モータ事業本部の上田だ。一世を風靡した掃除ロボットのモータを手がけた手腕が評価され、もっと高速回転が求められるハンディー用モータの開発リーダーに抜擢された。2012年のことだ。

「ハンディクリーナーの部品のなかで、モータはバッテリーの次に重い。モータの軽量化は製品の魅力に大きく貢献します」。

掃除機はモータの力で真空に近い状態をつくり、気圧の差で床に落ちている埃やゴミを吸い上げる。そのため、モータには強いパワーが求められる。パワーを求めるだけならモータを大きくすればよい。実際キャニスター型ではモータの大きさには事実上制限がなく、特段な工夫がなくても掃除機メーカーの要望を満たすことができた。だが、ハンディタイプではそうはいかない。軽さは最優先の検討事項。加えて小さくすることができれば、デザイン面でも工夫ができて、差別化にも繋がる。

磁石が割れた!製品に組み込んだところで想定外の自体が発生

上田らは、まず従来使われていたブラシ付きモータを、NIDECが得意とするブラシレスモータに変更することから手がけた。ブラシ付きモータに比べ、薄型でハイパワーを出せ、省エネルギーで済む。

「ハンディタイプでは風を作りだす羽のサイズがどうしても小さくなる。それでも求められる吸引力を出すためには、どうしても高回転にするしかありません。
モータ内部の極数を増やして、コンパクトななかでもハイパワーなモータを目指しました」。

掃除ロボット用モータの経験はあったが、本格的な掃除機用モータの開発はNIDECとしても初めて。ロボット用とハンディクリーナー用とでは、パワーも25倍も違う。
なかなか吸引力が出ない。振動が出るといった課題が次々と現れた。それらを一つひとつ潰していき、できたのは1分間に8万回転する超高速回転モータ。
既存のブラシ付きモータは3万回転なので、同じスペースで倍以上の吸引力を発生させた。重量でいえば、ブラシ付きモータから40%もの軽量化に成功。社内でのテスト結果は上々で、意気揚々とメーカに持ち込んだが、ここで問題が発生した。

「掃除機に実装して回したところ、モータ内部の磁石が割れてしまったのです。単品では大丈夫だったのですが、装置に組み込むと熱がこもったり、真空空間の圧力が想定以上に下がったりする。
そのため、磁石を貼り付けている鉄のローターがたわみ、その歪みに耐えきれず接着剤が剥げ、磁石が割れてしまったのです」。

メーカーとしてはすでに新製品発売のスケジュールを決めてしまっている。それを遅らせるわけにはいかない。
上田らのチームは全力をあげて対策を検討、あらかじめ熱膨張をして変形した状態を想定して接着剤を固める改良を行って、どうにか発売に間に合わせた。

磁石が割れた!製品に組み込んだところで想定外の自体が発生
急成長を続けるスティック型掃除機市場。軽量化への要望はますます強く

急成長を続けるスティック型掃除機市場。軽量化への要望はますます強く

「NIDECが掃除機用の画期的なモータを開発した」。

2016年、このニュースは、製品が発売される前から業界を駆け巡り、ぜひうちにも供給してほしいという要請が相次いだ。家庭の掃除機は、キャニスター型からスティックタイプへの移行が急速に進んでおり、年に50%もの勢いで伸び続けている。各社ともその波に乗り遅れまいと必死だった。その声に応えて内外各社への供給もスタート。2019年には設計を抜本的に見直して、安定性と一層の小型化を実現した第2世代をリリース。2021年にはハウジングを樹脂製にしてさらなる軽量化を達成した第3世代の供給も開始。性能が評価され後発ながらトップシェアをうかがう位置につけている。

「掃除機メーカー各社は、10グラム単位で競争しています。我々もそれについていかないといけない。一度よい成果を出せたからといって気を抜くことはできませんね」。