短に挑む Vol.01

軽くて吸引力のあるコードレスクリーナーを。掃除機のトレンドをリードする超高速回転モータ。 軽くて吸引力のあるコードレスクリーナーを。掃除機のトレンドをリードする超高速回転モータ
軽薄短小のメインビジュアル 軽薄短小のメインビジュアル

ユニークな第1世代がルーツ

かつては油圧式が一般的だったパワーステアリングも近年は電動化が進み、現在はモータで駆動する電動式が主流だ。パワーステアリング用のモータ(EPS)は今や自動車に欠かせない存在となっている。車載用モータの中でも、性能の高いEPSを作るのは非常に難しいと車載事業本部の芳賀は語る。

「EPSには100〜150Aくらいの電流が流れますが、12Vでそこまで電流が上がるモータはほかにありません。一方で、コギングトルクと呼ばれるモータに電流を通電しない場合に生じるトルク脈動すら、ステアリング性能に影響します。ドライバーがステアリングを動かす際にはモータに電流が流れてアシストしますが、僅かな脈動がドライバーに違和感として伝わってしまう。EPSが発生させるトルクは4〜8Nmくらいですが、コギングトルクは0.02Nm以下、トルクリップルは数%以下にしなければならないので、とても滑らかに動くモータが求められます」。

さらにスペースが限られるステアリング周辺に配置されるだけに、コンパクトであることも重要。Nidecでは2003年に登場した第1世代から、現在の第4世代までEPSを量産しているが、その間にサイズは半分以下にまで小さくなっている。

「世代ごとに約10〜20%ずつサイズダウンを実現してきました。特に配置される場所が車室内からステアリングラックの部分に変更された第2世代からは、長さ方向のサイズダウンが重要になりました。その上にエンジンが配置される、排気管など様々なパーツが周囲にあるため、サイズを短くすると同時に、厳しい熱環境に対応することにも苦労しました」。

第2世代から設計に携わる芳賀だが、その原点にあるのは新入社員時代に体感した第1世代EPSのユニークな設計だという。

「試作品を組み立てさせてもらったのですが、どうやって銅線を巻いて組み立てるのかはじめは理解することができませんでした。先輩の手を借りないとどうしても完成させることができず、人の手を介さずに量産できるとは信じられなかったくらいです。特殊な形状のコアを採用して、治具も何度も作り直して量産を実現していましたが、高い要求をアイディアで解決できるという意味で今も自分の中で見本となっています。今の自分でも、あの設計にはたどり着けないなと思うほどユニークな設計でした」。

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画期的な組み立て手法の開発でマーケットリーダーに

前述のように、第2世代からは配置場所がエンジン直下となり、厳しい熱環境への対応が迫られた。それまでの車室内では耐熱温度85℃が条件だったが、140℃にまでなったというから、その厳しさが想像できる。

「それだけ温度が高いと、通常の温度では動くモータが減磁してまともに動かなくなってしまう。磁石メーカーさんと配合や磁石の配向を見直したり、磁石の原理について改めて勉強させられた製品でした。磁石メーカーさんには10種類以上の配合を試してもらったはずです」。

第3世代ではさらに性能が向上。大手車載機器メーカーが開発するプラットフォームに採用され、EPSのマーケットリーダーへと飛躍した。

「できるだけシンプルな設計として、その後のEPSの標準となった製品ですが、その分5回くらいは設計変更を繰り返しました。プラットフォーム化の流れの中で、右ハンドルにも左ハンドルにも対応できるようになっています。コギングトルクも極めて低く抑えました。今なら制御で減らす方法もあるのですが、その当時は制御技術もそこまで発達していなかったため、モータ本体の性能で抑えています」。

そして最大のポイントは製品開発と同時に量産技術も開発し、画期的な手法で量産を実現したことだ。

「詳細は公開できませんが、第1世代のアイディアを応用することで量産化にこぎつけることができました。この技術を開発できなければ世に出せなかったかもしれません。大手車載機器メーカーの責任者からも『おかげで良い製品ができた』と直接お礼を言われてうれしかったですね。弊社のEPSの転換点となる画期的な製品だったと今でも思います」

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かたちは変わってもモータで曲げる技術は普遍

第4世代からは要求される耐久性能も跳ね上がる。従来は10年10万kmメンテナンスフリーであることが求められていたが、その耐用年数が15年、あるいは30年へと延びていった。

「車両が水没した場合や、ステアリングシャフトのブーツが破れて水が侵入した場合も正常に動くことが求められるようになりました。それだけ過酷な環境で使われることを視野に入れ出したのだと思います。外観の形状はあまり変わりませんが、第3世代では分割式でOリングで防水していたモータを収める部分をコップ型の形状にして、構造的に防水する設計にしています。その上で約20%の小型化も実現しました」。

次なる第5世代では、モータだけでの小型化には限界があるため、制御するECUなども含めたパワーパックというかたちでサイズダウンを提案していく方針。さらには自動運転化も見据えて、今後のステアリング機構がどうなっていくかも視野に入れている。

「自動運転になると、人の力をアシストしていた今までと異なり、モータだけでステアリングを動かすために出力の向上も求められるようになります。電動化が進めば、現在のようなラック式ではなく、インホイールモータの制御で向きを変えることになるかもしれません。ただ、自動車を曲げる技術は必須のものであり、そこにモータの力は不可欠だと考えているのでモータ技術者としてできることは必ずあるはずです」。