小に挑む Vol.01

軽くて吸引力のあるコードレスクリーナーを。掃除機のトレンドをリードする超高速回転モータ。 軽くて吸引力のあるコードレスクリーナーを。掃除機のトレンドをリードする超高速回転モータ
軽薄短小のメインビジュアル 軽薄短小のメインビジュアル

「そんなバカな」。あまりの小ささに試験を見せても半信半疑

活況を呈する電気自動車(EV)。その心臓部となるのが駆動力を担うトラクションモータ「E-Axle」だ。モータとインバータ、減速機と駆動に必要なシステムが一体となり、車体に搭載し、電力を供給すればすぐにEVを走らせることができる。

「当社E-Axleの特徴の1つが小ささです。特に高さ方向では他社のトラクションモータと比較して2割は小さい。モータの径の大きさは、トルクの数値に直結する重要な要素ですが、径は抑えつつもパワー密度ではライバルを大きく上回ります」と語るのは、E-Axleの開発責任者である車載事業本部の福永だ。

その常識はずれのサイズに、自動車メーカーの担当者も当初は半信半疑だったという。

「このサイズで十分なパワーとトルクを発生しているデータを見せても『こんな径でできるはずがない』と信じてもらえず、実際に試験機にかけている様子を海外から見に来た担当者もいらっしゃいました。測定結果をリアルタイムで表示しながら試験を見せても『そんなバカな……』という表情で、目の当たりにしているものを信じられないといった様子でした」。

飛び抜けた小ささを実現できたのは、日本電産がIT分野などで世界最小クラスのモータを次々と生み出し、開発のノウハウを蓄積していたためだ。

「小さいモータで高い出力を得るには、ステータコアの巻線を高密度にする必要があります。限られたスペースにいかに巻線を詰め込むかでモータの効率は決まる。とはいえ、巻線の面積を増やすために中心の鉄芯を細くしすぎると磁力飽和といってそれ以上トルクが出ないという現象が起きてしまいます。面積を増やしながら最も効率が良いところを狙うという部分に、コンパクトなモータを手掛けてきたノウハウが活きました」。

ハンドメイドのモータであれば占積率を高めることは難しくないが、E-Axleは量産することが前提。そのために高密度な巻線をいかに量産可能にするかで苦労した。

「巻線の高密度化は生産性の低下と本来トレードオフの関係にあります。それを両立するために、巻線部分をカセット化して挿入するカセットインサータという新たな工法を開発しました。これによって高い占積率を実現しながら、生産性も高めることができました」。

モータの軽量化が掃除機の魅力を左右するに関する写真
磁石が割れた!製品に組み込んだところで想定外の自体が発生

灼熱の砂漠でテストを繰り返し画期的な冷却方法を開発

もう1つ、課題として立ちはだかったのがモータの冷却だ。巻線が高密度化すれば、それだけモータ内部に熱がこもりやすくなる。従来、高出力なモータの冷却には水冷式を用いるのが一般的だったが、この方式ではモータの周囲にウォータージャケットを張り巡らせる必要があり、サイズが大きくなってしまう。

「そこで、我々は独自の油冷方式を採用しました。モータを油に浸し、それを冷却に用いるという手法で、外側から冷やす水冷方式に対して発熱源をしっかり冷やせるというメリットもあります。ただ、この油は減速機のギアオイルと共用しているため、樹脂などへの攻撃性も高い。樹脂にできるだけ触れさせない設計とするほか、温度管理などにも苦労しました」。

ギアを潤滑するオイルも兼ねているため、油温は当然上昇する。基本的にライフ期間中は無交換で使用するため、オイルのスペックを決めるためにも慎重にテストを積み重ねた。

気温が50℃にもなる砂漠の中のオーバルコースを150〜180km/hの速度で走り続けたり、気温が40℃を超える、砂漠の傍にある険しい山間部をひたすら登り続けるような過酷なテストを繰り返しました。その結果生まれたのが、オイルクーラーで冷やした油を吹きかける方式と、回転するモータシャフトから遠心力で油を噴き出して巻線端部を冷却する方式を採用した2way油冷構造です」。

急成長を続けるスティック型掃除機市場。軽量化への要望はますます強く

走り続けることが技術者の使命

EVという新たな乗り物を作る、しかもリリースの期日は動かせないという状況の中で、EVの心臓部であるトラクションモータを量産化するための苦労も絶えなかった。福永が「あまり思い出したくない」と語るほどだ。

「自動車は今のかたちになって100年以上の歴史があるので、新型車を作るといっても求められるスペックや性能はある程度決まっています。しかし、EVは新たな歴史を作って行く最中なので、自動車メーカー側も作りながら『もっとこうしたい』という要望が次々に出てくるんです。ときには設計時に設定していた限界のさらに向こう側の性能を求められることもあって、ゴールがどんどん遠のいて行くような感覚を覚えることもありました」。

開発目標値が次々に動き続ける中でもリリースの期日は動かない。すべての部品を新規開発しなければならない中で、製品化までの過程で「これで行ける」と安堵した瞬間は記憶にないという。だが、それだけの苦労をした甲斐は確実にあった。

「当社のE-Axleを搭載した電気自動車は既に10万台以上マーケットに出ています(2021.9月末現在)。広州などでは非常に多く見かけます。その光景はやはり壮観ですね。自動車業界に自分たちの存在感を示せたという手応えはあります」。

中国で”緑の旋風”と呼ばれた日本電産のE-Axle。スピード感の高い中国市場においても、大きな爪痕を残したトラクションモータの進化は今後も止まることはないだろう。