モータの不思議と更なる可能性の探究

第十三回 誘導モータと誘導子モータ

NIDEC Technical Adviser
見城尚志

第11回にも論じたように,電気で動くモータにはさまざまなタイプがあって,動きかたや力と回転速度の関係がそれぞれ大きく或いは微妙に違います。モータのタイプ(種類,分類)の名称を暗記しようとしても,それほど楽ではありません。名称が宿す意味と歴史的背景を知ることが大事です。

誘導モータと誘導子(型)モータは名称が似ていながら,特性と用途が大きく異なります。英語ではinduction motor とinductor motorです。モータ関連技術者は,誘導モータは工場の動力用に使われるモータであることや新幹線のモータとして輸送にも使われることを知っているでしょう。しかし「誘導子モータ」というものを聞いたことがない専門家は少なくないでしょう。これはモータの不思議の一つでもあります。

そこで,この2つのモータのそれぞれのステータとロータを図1の写真でご覧ください。これはモータ科学者育成のための教材用として筆者が設計したものです。大学の電気工学科の講義では誘導子モータは出てこないかもしれません。表1はこの2タイプの構造の違いを比較するものです。

図1 (a)誘導モータと(b)誘導子モータ; 双方ともステータに3相巻線を設置

図1のモータはいずも3相式です。つまり電源としては3相交流を使います。2相式も可能です。

英語のinductionとinductorの意味を語ります。Induction は電磁誘導のことです。この物理現象はFaradayが1831年に発見したことをご存知の読者が多いことと思います。誘導モータの発明はそれからほぼ50年後のことで,Nikola Teslaの業績です。ただし彼の方式は2相交流を使うものでした。ではInductorとは何か? 歴史的なルーツの探索はどなたかに任せて,短い文章で定義づけるとすれば,

『単極磁界(unipolar magnetic field)から多極の磁極(hetero poles )を誘導する装置』

と言えそうです。図2はその意味を軸方向からの視察で理解を助けるものです。

単極磁界の発生: 永久磁石型と電磁石型

改めて単極磁界とは何か?図1(b)ではロータの永久磁石が単極磁界を発生します。それとは違って電磁石を使う方式の原理を示すのが図3です。複雑な巻線を使わずに,鉄鋼の凹凸あるいは爪型形状によって多極(NSNSNSNS…)の磁界が発生する原理が図23で分かります。ここに,誘導子には磁界の向きを±90°変更する仕掛けが宿されています。

図2 誘導子の意味 ;単極磁界から多極の磁極が誘導される。
図3 単極電磁石から爪(claw-pole)型誘導子によって多極を発生する機構

ステッピングモータの2つのタイプ

誘導子モータはステッピング・モータとして位置決め制御用に大量に*生産され,事務機器やロボットに使われています。永久磁石を使うステッピング・モータにはハイブリッド(hybrid)型とクローポール(claw-pole)型があります。図1(b)は3相ハイブリッド型です。図3に示す電磁石を単極磁界の発生源にするのがクローポール型であり,図4のものは2相式です。図5は実際の2相ハイブリッド型であり,フロッピーディスク装置のヘッドの位置決めに使われたものです。表2は両タイプの構造上の比較です。これら2方式のステッピング・モータの設計を論じた貴重な資料が参考資料1です。

図4 (a)Claw-pole型ステッピングモータ
図5 ハイブリッド型2相ステッピングモータ

モ―タと発電機の関係

モ―タは発電機にもなります。Inductor machineの発電機としての典型が,図6の写真のような交流発電機で,自動車電装品 - alternator, オールタネータです。2個のスリップリングを通してバッテリーからわずかな直流の電流をロータに供給して,クローポール型誘導子によって多極磁界が発生します。ステータとしては,分布巻き方式と集中巻き方式があります。エンジンからの動力によってクローポール型ロータを回して,ステータ巻線に発生する3相交流は6個の整流用ダイオードで直流に変換され,自動車内のさまざまな電気機器に使われます。発生する3相交流電圧は,バッテリーからの電流が一定であれば,エンジンの回転速度に比例します。しかし速度に応じて直流の電流を制御すれば発電機の出力電圧はほぼ一定値に調整されます。

図6 自動車の交流発電機に使う誘導子
バッテリーからの直流で単極巻線を励磁して爪型誘導子で多極(12極)を発生する。

なぜ誘導子モータがEVの主モータにならないか?

さまざまな回転型モータがある中で,図4のクローポール型は構造として最も簡単です。このモータは回転角センサを取り付けるとブラシレスDCモータにもなります。では,クローポール型の体格を大きくしてEVの駆動用のブラシレスモータに設計できるのでしょうか?おそらく,世界各地の実験室でその試みはされていると思うのですが,製品化としては聞いていないのが不思議です。おそらく,磁気回路内での熱損失のために効率が低いことが原因の一つだろうと思います。ですから,熱損失を抑制する対策がさまざまあっても良さそうに思えます。

誘導モータのさらなる可能性は?

誘導モータとして圧倒的なのが籠形誘導モータです。次回は,京都大学の中村武恒教授に譲って,籠形誘導モータのさらなる可能性として画期的な実用研究最先端を語っていただこうと思います。

参考資料

1. 見城尚志・他:トランジスタ技術SPECIAL 165,2024年1月

第15章 坂本:第15章 従来の永久磁石型ステッピング・モータとは

第16章 坂本:永久磁石を減らしたHB型ステッピング・モータの実際

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